「時の罠」(文春文庫)感想~アンソロジーならばの出会いと発見~
![]() | 時の罠 (文春文庫) (2014/07/10) 辻村 深月、湊 かなえ 他 商品詳細を見る |
辻村深月、万城目学、湊かなえ、米澤穂信―綺羅、星のごとく輝く人気作家たちによる、“時”をテーマにしたアンソロジー。(裏表紙内容紹介より)
アンソロジーものって好きです。
雑誌は売れず、マンガも小説も個々の人気作家ばかりがベストセラーになる昨今ですが、
こういう複数の作家たちによる競作って、贔屓の作家さんだけでない新たな出会いや発見があったりして、楽しさが広がります。
また、それぞれの作家さんの個性というか味わいの違いが分かりやすく見えるのもいいですね。
雑誌もそうですが、自分の好み以外の世界も知ることによって、どんどん世界が広がって行く感じは単独本では味わえない面白さがあるので、
これからもこういった競作ものは続けていって欲しいですね。
今回、私は米澤さんが目当てだったわけですが、四者四様、どの短編もちょっと不思議な味わいで意外なほどでした。
「時の罠」と聞いて最初、タイムリープものなどがメインの時間SFアンソロジーかと思ったんですよ。“罠”というのもなんだか「タイムパラドックス」を意識させますし。
でも、読んでみたらいわゆる「タイムトラベル」ものは皆無。というかSFらしいSFさえもなかったです。(米澤さんのはSFと言えばSFですが……)
では、一作ごとに見ていきましょうか。
●タイムカプセルの八年(辻村深月)
一人息子とぎくしゃくしている父親が、8年前に息子たちが埋めた「タイムカプセル」のことを回想する形で話は進みます。
「タイムカプセル」を埋めた本人たちではなく、その親たちの想いをテーマにしているのが面白いですね。ラストもさわやか、というよりむしろ痛快といった感じです。
辻村さんは以前、「ツナグ」を読んだことがあったくらいで、ほとんど未読だったのですが、
やっぱり学園ホラーミステリ作家というイメージが強かったので、こういう親子関係の機微を鮮やかに描く感じはちょっと新鮮でしたね。
●トシ&シュン(万城目学)
「縁結び」の神様が「学問」「芸能」の神社にヘルプとして呼ばれ、「芸能」のほうを任される。
小説家を目指しているトシと女優を目指しているシュンの願いを成就させようと奮闘する神様だが……といった感じの民俗ファンタジーでしょうか。
万城目さんも「鴨川ホルモー」しか読んでいなかったのですが、
4人の中では一番、イメージ通りの作風でしたね。
オチは正直、途中で読めてしまいましたが、それも含めて「ほっこりファンタジー」といった感じで楽しめます。
●下津山縁起(米澤穂信)
あらすじが書けない……
まあ、形式としては「年代記」ですね。あとは読んでいけばわかりますw
それにしても、なんとも形容しがたい作品です。
最初何が始まったのかさえ、よくわからないまま「下津山」に関する資料だけを読まされていきます。
ようやく話がみえてくるのは、A.D.2191年で、森島博士が登場するあたりからでしょうか。
まあ、あまりに壮大な、そして悠久の“時”をかけた「犯罪」計画だったわけですね。
最後、弁護側の「荒唐無稽な主張だ」という反論はそのまま、読み終えた読者の感想でもありますw
いや、ツボさえはまれば最後、爆笑できること請け合いですよ。
これは一応、SFミステリということになるんでしょうが、
「時の罠」というテーマでこういう作品が思いつくのが米澤さんなんですね。らしいと言えばらしいんですが、やはりこれは「異色作」でしょうね。
まあ、人を選ぶ作品ではあるので、これだけを読んで「米澤穂信は俺には合わない」と思わないでください、とだけ言っておきますw
●長井優介へ(湊かなえ)
長井優介は同窓会の案内を受けて、15年ぶりにかつて小学校時代を過ごした土地へ戻ってきた。卒業式の日に埋めた「タイムカプセル」に封印したものを手に入れるために。
辻村さんに続いて、こちらも「タイムカプセル」もの。
偶然なんでしょうが、同じ女性作家ふたりで題材がかぶるというのはちょっと興味深いです。
今回、4人の中で湊さんだけが初読でした。
いや、びっくりしましたね。意外性という面では一番でした。こういう作品も書くのかと。
湊かなえといえば、デビュー作の「告白」があまりに強烈で、「イヤミス」ブームの火付け役といったイメージがあまりに強かったので、個人的には避けていたんですよ。
前にも書きましたが、高橋留美子主義者として「バッドテイスト」ものは嫌いなので。
本当に良い意味で裏切られましたね。
まず、タイトルの「長井優介へ」が素晴しいし、そのタイトルである「手紙」の内容自体は最後まで分からないのも不思議な余韻を残します。
最後は、目の前がすっと開けていくような、とても美しいラストでした。
それにしても、このメンツの中でももっとも読後感の悪そうな湊かなえさんに、ここまで心を持って行かれるとは!
こういった新たな発見と出会いがあったりするので、やっぱりアンソロジーものは見逃せません。
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