エンド・リ・エンド1感想 ~エキサイトでしょう?エキサイトですよね☆~
![]() | エンド・リ・エンド1 退屈で無価値な現実から、ゲエム世界へようこそ。 (角川スニーカー文庫) (2014/08/01) 耳目口 司 商品詳細を見る |
「と、キミは思いましたよね! 残念でしたー☆ そう単純な話(ストーリー)じゃないんデスよ」(本文62ページより引用)
えー、まずは始めにお詫びをしたいと思います。
買った時、“今更「ギャルゲーに転生」もの書くのかよ…”とか言ってすみませんでした。
“凡庸なテンプレラノベ”とか疑ったりしてほんと、すみませんでした!
やっぱり耳目口は耳目口でした。「丘ルトロジック」とはちょっと方向は違いますが、これはこれで相当狂っている作品です。
まずはざっとあらすじを。
ずっと「灰色の人生」を送ってきた主人公。そこに青い小動物の形をした悪魔“ルーニー”が現れ、
「『主人公』になって、人生をやり直してみたくないデスか?」
とギャルゲーの世界で人生をやり直さないかと誘われる。
その世界はまさに典型的なギャルゲーワールド、健康な肉体でイケメンで両親が海外に出張していてかわいい義妹とふたり暮らし、おまけに周りは可愛い女の子ばかり。
主人公はそのいたって普通で平穏な学園生活での幸福をかみしめる。
だが、彼はまだ知らない。
これはただのギャルゲーではなく、ルーニーが作り上げた「悪魔のギャルゲー」であることを……。
と、まあこんな感じでしょうか。
物語自体は前作「丘ルトロジック」に比べるとすごく分かりやすいです。
章構成も「ゲームスタート」→「プロローグ」→「チュートリアル」→「ポカヨケ」→「ミッション1(A,B)」→「ネタバレ」となっていて実にわかりやすい親切設計となっています。
しかし、それは我々読者にとって「やさしい」だけの話し、
これが主人公「御代田侑」にとっては実に残酷なシステムになっているのですね。
特に「ネタバレ」にいたっては相当きついです。
いや、本当にむちゃくちゃ残酷な話ですよ。ある意味、「丘ルトロジック」よりもはるかに。
もちろん“残酷”といっても、別に目の前でヒロインが惨殺されるとか、ヒロインたちが主人公に襲いかかるとか、そういった“残酷”さではありません。描写が残酷というレベルではなく、もっと構造的なレベルです。
※以下、ネタバレを含むかもしれません。(核心的なことは避けています)
●主人公は誰のために存在するのか
転生した後の展開は、いかにも「ギャルゲー」のテンプレ通りに進んでいきます。
義理の妹がいたり、両親は一年間海外に出張と称して出かけて行ったり、主人公のお世話をする幼なじみがいたり、通学途中でぶつかってくる帰国子女の転校生がいたり、とまあ、話しだけ追って行くと退屈きわまりないと言っていいでしょう。
しかし、いくら読者にとってはテンプレでつまらないキャラや展開でも、
ずっと「灰色の人生」を過ごしてきた主人公にとっては、それは普通でもなんでもなくって、自分にはすごく特別で大切なことであることを知っています。
だから彼はその悪意のないあまりに「やさしい」日々を大切にしようと誓う訳です。
だが、それを決して許さない者が存在します。そう、ルーニーですね。
「いえ、もう十分に楽しんでいマス。キミはこの世界を構成する一人であることに、これ以上ないほどの生き甲斐を感じている」
「でも、望まれているのはそんなものではありません。キミは『主人公』であってモブではない。~中略~誰も普通の話になんて興味はない」
「ここは癒やす世界ではなく、楽しませる世界なのデス。」(本文202、203ページより引用)
最初ルーニーという悪魔は作者・耳目口司氏の化身だと思っていました。
ところが読み進めていくうちに、もしかしたら、ルーニーとはこの「ゲーム」を楽しんでいる我々読者そのものを暗喩しているのではないかという気もしてくるわけです。
要は「ゲーム」の残酷さを追求している作品なんですね。
「ゲーム」ならば“面白く”なければなりません。
そして、主人公はあくまで「ギャルゲー」の主人公として振る舞うことを求められます。
それは、メインヒロインを選択し恋人になると同時に、
『それ以外の女の子を全て捨てる』ことを意味しているわけです。
でもそれは誰のためでしょうか?少なくとも彼自身の幸福のためではないんですよね。
そう、彼はきっと私たち読者を楽しませる為だけに存在しているのです。
●テンプレと切り捨てる残酷さ
「この世界のことをゲームって呼ぶの、やめろよ」
「この世界はこの世界だろ。ここにいる人たちはみんな生きていて、それぞれの日常を送っているんだからさ」(本文152ページより引用)
主人公が転生したゲーム世界は、あまりに使い古された「ザ・ラノベ」的な設定ばかりです。
でも、ずっと満足に動く事もできずに灰色の部屋に閉じ込められていた彼にとっては、新しい人生そのものです。
それを“テンプレ”でつまらないと切り捨てることがいかに「残酷」なことか!
“今更「ギャルゲーに転生」ものかよ”
“凡庸なテンプレラノベ”
ああ、私はなんて残酷なことを思っていたのでしょうか!
読む側にはテンプレでも、そこにいるキャラクターにとってはかけがえのない、特別な毎日かもしれないのに!
……と、まあちょっとは自分の「残酷」さを突きつけられたような気にもさせてくれる訳ですよ。メタすぎるくらいメタメタな作品です。
いや、むしろ「ゲーム」というより「フィクション」そのものに対するメタ構造ですね。
お前はこの「エンド・リ・エンド」という世界の主人公なんだ、もっとエキサイトな展開にして俺等を楽しませろと言われたも同然なのですから。
これからは平穏なテンプレ展開を望む主人公・NPC連合軍 VS(バーサス) “エキサイト”な話を求めるルーニー・読者連合軍といった展開になるかもしれません(?)
●ミステリとしてのエンド・リ・エンド
さて、この「ゲーム」の最終目標はメインヒロインとつき合うことです。
1巻では5人のヒロイン候補が出てきますが、メインヒロイン以外はNPC、つまりルーニーが創造した「プログラム」に過ぎません。
逆に言えば、メインヒロイン一人だけは、主人公と一緒で現実から転生してきた「人間」であるわけです。
NPCはあくまで「プログラム」なのであらかじめ設定してある「キャラ設定」から逸脱した言動は決してしません。しかし、メインヒロインだけは「キャラ設定」に逆らえる。つまり、それこそが「プログラム」ではなく「人間」である証でもあるわけです。
この設定もうまいですね。
転生してからの展開が、あまりにギャルゲーやラノベパターンをそのまま踏襲したものばかりなので、正直、飽き飽きとしてくる部分も当然あるわけですが、
ルーニーがこういったゲーム設定を早々と説明してくれるおかげで、どんなにテンプレ展開がこようとも、一方で誰がNPCで誰が「メインヒロイン」であるのか、推理する「ミステリ」としての面白さも楽しめる訳です。
なお、タイトルに“1”とあるようにこれは続刊前提ですので、最後まで読んでも「メインヒロイン」がだれかはわかりません。
というか、1巻ごとに事件を解決していた「丘ルトロジック」と違い、2巻への“引き”がある完全続きものとなっています。
5人いるメインヒロイン候補のうち、今回で一人脱落しているので、あと4人。
1巻ごとに1人脱落して行くとするとあと4巻つづきそうですね。
(もっとも本格ミステリというわけではないので、フェアに推理材料が揃っているかはわかりませんけどね。まだ、メインヒロインは登場していないというパターンもあるかも……)
●「ゲームとは何か」とは何か
“ベタ”をあえて取り入れてメタとして昇華させてしまうという手法は、森田季節氏の「不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)2」同様「涼宮ハルヒ」シリーズを彷彿させます。
「破天荒な研究会会長 犀南若菜」などは明らかにハルヒ的なキャラですし、耳目口氏もハルヒシリーズのメタ構造を意識しているのは間違いないでしょう。
ただ、こちらはどうもメタと思わせて最後には……、といった方向では終わりそうもありません。
というのも、あとがきによると、
「そもそもゲームとは何か」という、一つの解釈についての話にしようとしているからです。
(その点で「丘ルトロジック」と似ているとも書いています)
これはかなりヤバい方向に行きそうな臭いがぷんぷんします。
下手すると筒井康隆や清水義範ばりのガチメタを目指している可能性もありますね。
ハルヒどころか、「学校を出よう!」でいうところの“上位世界”的なメタ構造に発展したりして……
しかも作中で、『少し不思議研究会(SF研)』会長・犀南若菜は「作っているゲームの中に転生」することを最終目的にしていると宣言しています。
これは、転生したゲームの中でさらにそのゲームの中に入ってまたその中にあるゲームに……といった、『入れ子』構造になる可能性さえあるのではないでしょうか。
小説内小説とかはよくありますが、転生内転生とかもう収集が付かなくなりそうな気配です……。
まあ考え始めたらキリがないですよね。
そもそも、難病でずっと病室に閉じ込められている“現実”さえも本当の“現実”ではないかもしれません。すべて耳目口司というラノベ作家の妄想なんだよ、という身もフタもないメタエンドさえもありうるかもしれませんし。
本当に“メタ”って難しいです。
いろいろ考えだすと、最後には全部、単なる「ほら話」で終わりですからね。
そういう夢オチ的な逃げではなく、
できれば、主人公がルールを逆手にとってルーニーの裏をかくとか、
そういった熱い展開を期待したい。
まあ、耳目口さんによりますと、「頭脳戦」のようなものではなく、
「ゲームとは何か」というゲーム論に方向になるとのことですので、そうはいきそうもないですが。
●エキサイトでしょう?エキサイトですよね☆
いずれにせよ、1巻ではまだルール説明で終わってしまった感がありますので
2巻以降が本番でしょうね。
何せ、ゲーム期限が1年なのに対して、ゲーム内時間はまだ1か月も立っていませんし、ヒロイン候補もまだ4人もいます。
さらに最後で追加ルールまで仄めかされていますから、続けようと思えばいくらでも続けられそうです。
逆に言えば、売れ行き次第ではさっさとバッドエンドルートに直行、という打ち切りルートも可能なわけで、
それも含めてまあよくできた設定なんですね。
というわけで、打ち切りにならないためにも、
主人公には申し訳ないですが、これからも「エキサイト」なゲームを我々読者に見せてもらいましょう!
転生した後の展開は、いかにも「ギャルゲー」のテンプレ通りに進んでいきます。
義理の妹がいたり、両親は一年間海外に出張と称して出かけて行ったり、主人公のお世話をする幼なじみがいたり、通学途中でぶつかってくる帰国子女の転校生がいたり、とまあ、話しだけ追って行くと退屈きわまりないと言っていいでしょう。
しかし、いくら読者にとってはテンプレでつまらないキャラや展開でも、
ずっと「灰色の人生」を過ごしてきた主人公にとっては、それは普通でもなんでもなくって、自分にはすごく特別で大切なことであることを知っています。
だから彼はその悪意のないあまりに「やさしい」日々を大切にしようと誓う訳です。
だが、それを決して許さない者が存在します。そう、ルーニーですね。
「いえ、もう十分に楽しんでいマス。キミはこの世界を構成する一人であることに、これ以上ないほどの生き甲斐を感じている」
「でも、望まれているのはそんなものではありません。キミは『主人公』であってモブではない。~中略~誰も普通の話になんて興味はない」
「ここは癒やす世界ではなく、楽しませる世界なのデス。」(本文202、203ページより引用)
最初ルーニーという悪魔は作者・耳目口司氏の化身だと思っていました。
ところが読み進めていくうちに、もしかしたら、ルーニーとはこの「ゲーム」を楽しんでいる我々読者そのものを暗喩しているのではないかという気もしてくるわけです。
要は「ゲーム」の残酷さを追求している作品なんですね。
「ゲーム」ならば“面白く”なければなりません。
そして、主人公はあくまで「ギャルゲー」の主人公として振る舞うことを求められます。
それは、メインヒロインを選択し恋人になると同時に、
『それ以外の女の子を全て捨てる』ことを意味しているわけです。
でもそれは誰のためでしょうか?少なくとも彼自身の幸福のためではないんですよね。
そう、彼はきっと私たち読者を楽しませる為だけに存在しているのです。
●テンプレと切り捨てる残酷さ
「この世界のことをゲームって呼ぶの、やめろよ」
「この世界はこの世界だろ。ここにいる人たちはみんな生きていて、それぞれの日常を送っているんだからさ」(本文152ページより引用)
主人公が転生したゲーム世界は、あまりに使い古された「ザ・ラノベ」的な設定ばかりです。
でも、ずっと満足に動く事もできずに灰色の部屋に閉じ込められていた彼にとっては、新しい人生そのものです。
それを“テンプレ”でつまらないと切り捨てることがいかに「残酷」なことか!
“今更「ギャルゲーに転生」ものかよ”
“凡庸なテンプレラノベ”
ああ、私はなんて残酷なことを思っていたのでしょうか!
読む側にはテンプレでも、そこにいるキャラクターにとってはかけがえのない、特別な毎日かもしれないのに!
……と、まあちょっとは自分の「残酷」さを突きつけられたような気にもさせてくれる訳ですよ。メタすぎるくらいメタメタな作品です。
いや、むしろ「ゲーム」というより「フィクション」そのものに対するメタ構造ですね。
お前はこの「エンド・リ・エンド」という世界の主人公なんだ、もっとエキサイトな展開にして俺等を楽しませろと言われたも同然なのですから。
これからは平穏なテンプレ展開を望む主人公・NPC連合軍 VS(バーサス) “エキサイト”な話を求めるルーニー・読者連合軍といった展開になるかもしれません(?)
●ミステリとしてのエンド・リ・エンド
さて、この「ゲーム」の最終目標はメインヒロインとつき合うことです。
1巻では5人のヒロイン候補が出てきますが、メインヒロイン以外はNPC、つまりルーニーが創造した「プログラム」に過ぎません。
逆に言えば、メインヒロイン一人だけは、主人公と一緒で現実から転生してきた「人間」であるわけです。
NPCはあくまで「プログラム」なのであらかじめ設定してある「キャラ設定」から逸脱した言動は決してしません。しかし、メインヒロインだけは「キャラ設定」に逆らえる。つまり、それこそが「プログラム」ではなく「人間」である証でもあるわけです。
この設定もうまいですね。
転生してからの展開が、あまりにギャルゲーやラノベパターンをそのまま踏襲したものばかりなので、正直、飽き飽きとしてくる部分も当然あるわけですが、
ルーニーがこういったゲーム設定を早々と説明してくれるおかげで、どんなにテンプレ展開がこようとも、一方で誰がNPCで誰が「メインヒロイン」であるのか、推理する「ミステリ」としての面白さも楽しめる訳です。
なお、タイトルに“1”とあるようにこれは続刊前提ですので、最後まで読んでも「メインヒロイン」がだれかはわかりません。
というか、1巻ごとに事件を解決していた「丘ルトロジック」と違い、2巻への“引き”がある完全続きものとなっています。
5人いるメインヒロイン候補のうち、今回で一人脱落しているので、あと4人。
1巻ごとに1人脱落して行くとするとあと4巻つづきそうですね。
(もっとも本格ミステリというわけではないので、フェアに推理材料が揃っているかはわかりませんけどね。まだ、メインヒロインは登場していないというパターンもあるかも……)
●「ゲームとは何か」とは何か
“ベタ”をあえて取り入れてメタとして昇華させてしまうという手法は、森田季節氏の「不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)2」同様「涼宮ハルヒ」シリーズを彷彿させます。
「破天荒な研究会会長 犀南若菜」などは明らかにハルヒ的なキャラですし、耳目口氏もハルヒシリーズのメタ構造を意識しているのは間違いないでしょう。
ただ、こちらはどうもメタと思わせて最後には……、といった方向では終わりそうもありません。
というのも、あとがきによると、
「そもそもゲームとは何か」という、一つの解釈についての話にしようとしているからです。
(その点で「丘ルトロジック」と似ているとも書いています)
これはかなりヤバい方向に行きそうな臭いがぷんぷんします。
下手すると筒井康隆や清水義範ばりのガチメタを目指している可能性もありますね。
ハルヒどころか、「学校を出よう!」でいうところの“上位世界”的なメタ構造に発展したりして……
しかも作中で、『少し不思議研究会(SF研)』会長・犀南若菜は「作っているゲームの中に転生」することを最終目的にしていると宣言しています。
これは、転生したゲームの中でさらにそのゲームの中に入ってまたその中にあるゲームに……といった、『入れ子』構造になる可能性さえあるのではないでしょうか。
小説内小説とかはよくありますが、転生内転生とかもう収集が付かなくなりそうな気配です……。
まあ考え始めたらキリがないですよね。
そもそも、難病でずっと病室に閉じ込められている“現実”さえも本当の“現実”ではないかもしれません。すべて耳目口司というラノベ作家の妄想なんだよ、という身もフタもないメタエンドさえもありうるかもしれませんし。
本当に“メタ”って難しいです。
いろいろ考えだすと、最後には全部、単なる「ほら話」で終わりですからね。
そういう夢オチ的な逃げではなく、
できれば、主人公がルールを逆手にとってルーニーの裏をかくとか、
そういった熱い展開を期待したい。
まあ、耳目口さんによりますと、「頭脳戦」のようなものではなく、
「ゲームとは何か」というゲーム論に方向になるとのことですので、そうはいきそうもないですが。
●エキサイトでしょう?エキサイトですよね☆
いずれにせよ、1巻ではまだルール説明で終わってしまった感がありますので
2巻以降が本番でしょうね。
何せ、ゲーム期限が1年なのに対して、ゲーム内時間はまだ1か月も立っていませんし、ヒロイン候補もまだ4人もいます。
さらに最後で追加ルールまで仄めかされていますから、続けようと思えばいくらでも続けられそうです。
逆に言えば、売れ行き次第ではさっさとバッドエンドルートに直行、という打ち切りルートも可能なわけで、
それも含めてまあよくできた設定なんですね。
というわけで、打ち切りにならないためにも、
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