不戦無敵の影殺師2
森田季節氏の異色バトルもの「不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)」の2巻目。
えー、基本的には1巻と同じような流れになっています。
前半は現状に対する主人公の陰々滅々した愚痴や不安を連ねつつ、
異能者業界の軋轢や世知辛さをおもしろおかしく描き、
後半にはきっちり熱いバトルでカタルシスを感じさせる。
しかし、全体に流れるトーンは重苦しさが漂っている……
といった感じなのですが、
正直、少し物足りなかったというか、もうちょっと新たな展開があってもよかったかなと感じました。
ただ、最後でようやく戦うべき敵である、“組織”の片鱗が見えてきましたし、
“異能力制限法”が成立した背景も徐々にわかってきたので、
次巻あたりから大きく物語が動きそうな感じではあります。
また、今回で主人公の朱雀はある一線を越えてしまうのですが、これも今後の展開に影響を与えそうで楽しみですね。
(余談ですが、朱雀が一線を越えた描写は同作者の作品「魔女の絶対道徳」に比べると弱いと感じました。なんというか、異端者である覚悟がまだ甘い気がします。)
※以下、人によってはネタバレ的なものを含むかもしれません。
えー、基本的には1巻と同じような流れになっています。
前半は現状に対する主人公の陰々滅々した愚痴や不安を連ねつつ、
異能者業界の軋轢や世知辛さをおもしろおかしく描き、
後半にはきっちり熱いバトルでカタルシスを感じさせる。
しかし、全体に流れるトーンは重苦しさが漂っている……
といった感じなのですが、
正直、少し物足りなかったというか、もうちょっと新たな展開があってもよかったかなと感じました。
ただ、最後でようやく戦うべき敵である、“組織”の片鱗が見えてきましたし、
“異能力制限法”が成立した背景も徐々にわかってきたので、
次巻あたりから大きく物語が動きそうな感じではあります。
また、今回で主人公の朱雀はある一線を越えてしまうのですが、これも今後の展開に影響を与えそうで楽しみですね。
(余談ですが、朱雀が一線を越えた描写は同作者の作品「魔女の絶対道徳」に比べると弱いと感じました。なんというか、異端者である覚悟がまだ甘い気がします。)
※以下、人によってはネタバレ的なものを含むかもしれません。
●ヒロインたちの影の薄さ
それにしてもこの作品、ヒロイン候補の女の子はたくさん出るのですが、どうも主人公の煌霊である小手毬以外ぱっとしません。
まあおそらくメインヒロインは小手毬でしょうから、彼女が一番おいしい扱いをされるのは当然なのですが、サブヒロインたちがねえ……。どうにも影が薄く感じてしまうのです。
舞花とみぞれなんかは今回ほとんどかやの外でしたからね。
さらに一線を越えた朱雀に
「このことは誰にも言わない。とくに舞花やみぞれにはな」
とまで言わせています。
つまりは彼女らと主人公ではもはや生きる世界が違うのだと、この段階で白黒はっきりさせてしまったわけで……
前回のラスボスであった万里は今後、主人公とともに“黒幕”と対決していくんでしょうが、このキャラもいまのところ主義主張のバッグボーンがよくわからないので、どうにも感情移入しずらい部分があります。
別にハーレム展開にすることはないとは思いますが、これだけ女の子を登場させるのですから、やはりキャラは大切にしてほしいです。ラノベでキャラが弱いというのはやはり問題ですよ。
舞花とみぞれは立ち位置も微妙なんですよね。どう考えても恋愛的にはかませ確定ですし、メインバトルからはハブられていますし……。
単に同期会で主人公の愚痴を聞いてあげるだけの存在では悲しすぎます。
それでも今回主人公を終始、敵視していた川匂という新キャラはなかなかよかったと思います。
彼女なら万里側の人間ですし、汚い戦いにも躊躇しない感じですし、異能力者が芸人扱いされている社会にいろいろと複雑な思いもあるようですから、その辺に期待ですかね。
●「涼宮ハルヒ」シリーズと共通する構造
後、こんなことを書くと的外れと言われるかもしれませんが、
読んでいて、なんとなく「涼宮ハルヒの憂鬱」を思い出しました。
1巻の感想でもちらっと書きましたが、これってやっぱり「ライトノベル作家としての忸怩たる想いを赤裸裸にしたメタ的自伝小説」的な要素を感じ取ってしまうんですね。
で、そういったメタ的視点を用いて、
テンプレを拡大再生産して膠着状態のラノベ業界に対して皮肉っているかのように見せつつも、最後には物語の王道として収束していく……、という構造が、
どこか「ハルヒ」に通じる部分があるように感じたのです。
今のライトノベルで“メタ”っぽいことをやってもけっきょく、“ネタ”として消費されがちなんですよね。つまり“あるある”的な方向で。
そんな中、「ハルヒ」が革命的だったのは、
“なぜか主人公の周りに非日常的な存在があつまってくる”とか“いわゆるひとつの萌え要素”など、
それまでの「お約束」をあてこすりながらもそれを逆手に取って、物語の基本設定として取り込んでしまったことです。
このメタっぽくちゃかしているようで、実はそれ自体が物語の構造に大きく関わってくるというスタイルは、 私にとってかなりの衝撃でした。
「不戦無敵の影殺師」もラノベ業界やTVのバラエティの世知辛い現実をネタにしつつも、
それをうまく「異能力者が共存する社会」という設定に落とし込むことで、単なる“本音ぶっちゃけもの”にならずに済んでいるんですね。
●メタから物語へ着地することができるか
今回、「不戦無敵の影殺師2」の主人公・朱雀は冒頭でこう独白します。
小説やマンガに出てくる異能力者のことが嫌いだ。
フィクションの異能力者には、ちゃんと敵がいる。
~中略~
しかし、現実はそうはいかない。
倒さないといけない敵なんて、存在しない。仮に悪い奴がいたとしても、大半は警察の管轄で事足りる。
現実の敵はもっとあいまいなものばっかりだ。
(「不戦無敵の影殺師2」プロローグから引用)
つまり、のっけから“バトルもの”の嘘くささを指摘しているわけです。
で、この巻のクライマックスで、「真の敵」が見えてきます。
それは「御大」と呼ばれる「黒幕」であり、名前もない「組織」。
まあ、“ベタ”ですよね。つまりこれはメタ的でもあるんでしょう。
いちいち異能力者の技を漢字表記にしてそれに英語のルビをふっているのと同じで、
あえて“ラノベの“お約束”を踏襲しているわけです。
ヒーローは何と戦うのか。もしくは何のために戦うのか。
すでに多くの名作が追求している、ある意味、手あかのついたテーマとも言えるでしょう。
なので、生半可なオチでは一気に陳腐化してしまう危険性があります。
しかし今回、この鬼門ともいうべき難しいテーマを
あえて、メタ目線を踏まえつつ入れてきたということは、
森田氏なりの覚悟があってのことでしょうから、ここは期待せざるを得ません。
単なる、業界に対するあてこすりに終わらせることなく、
物語としてきちんとおとしまえをつけることができるかどうか、
いちファンとして最後まで見届けようと思っています。
それにしてもこの作品、ヒロイン候補の女の子はたくさん出るのですが、どうも主人公の煌霊である小手毬以外ぱっとしません。
まあおそらくメインヒロインは小手毬でしょうから、彼女が一番おいしい扱いをされるのは当然なのですが、サブヒロインたちがねえ……。どうにも影が薄く感じてしまうのです。
舞花とみぞれなんかは今回ほとんどかやの外でしたからね。
さらに一線を越えた朱雀に
「このことは誰にも言わない。とくに舞花やみぞれにはな」
とまで言わせています。
つまりは彼女らと主人公ではもはや生きる世界が違うのだと、この段階で白黒はっきりさせてしまったわけで……
前回のラスボスであった万里は今後、主人公とともに“黒幕”と対決していくんでしょうが、このキャラもいまのところ主義主張のバッグボーンがよくわからないので、どうにも感情移入しずらい部分があります。
別にハーレム展開にすることはないとは思いますが、これだけ女の子を登場させるのですから、やはりキャラは大切にしてほしいです。ラノベでキャラが弱いというのはやはり問題ですよ。
舞花とみぞれは立ち位置も微妙なんですよね。どう考えても恋愛的にはかませ確定ですし、メインバトルからはハブられていますし……。
単に同期会で主人公の愚痴を聞いてあげるだけの存在では悲しすぎます。
それでも今回主人公を終始、敵視していた川匂という新キャラはなかなかよかったと思います。
彼女なら万里側の人間ですし、汚い戦いにも躊躇しない感じですし、異能力者が芸人扱いされている社会にいろいろと複雑な思いもあるようですから、その辺に期待ですかね。
●「涼宮ハルヒ」シリーズと共通する構造
後、こんなことを書くと的外れと言われるかもしれませんが、
読んでいて、なんとなく「涼宮ハルヒの憂鬱」を思い出しました。
1巻の感想でもちらっと書きましたが、これってやっぱり「ライトノベル作家としての忸怩たる想いを赤裸裸にしたメタ的自伝小説」的な要素を感じ取ってしまうんですね。
で、そういったメタ的視点を用いて、
テンプレを拡大再生産して膠着状態のラノベ業界に対して皮肉っているかのように見せつつも、最後には物語の王道として収束していく……、という構造が、
どこか「ハルヒ」に通じる部分があるように感じたのです。
今のライトノベルで“メタ”っぽいことをやってもけっきょく、“ネタ”として消費されがちなんですよね。つまり“あるある”的な方向で。
そんな中、「ハルヒ」が革命的だったのは、
“なぜか主人公の周りに非日常的な存在があつまってくる”とか“いわゆるひとつの萌え要素”など、
それまでの「お約束」をあてこすりながらもそれを逆手に取って、物語の基本設定として取り込んでしまったことです。
このメタっぽくちゃかしているようで、実はそれ自体が物語の構造に大きく関わってくるというスタイルは、 私にとってかなりの衝撃でした。
「不戦無敵の影殺師」もラノベ業界やTVのバラエティの世知辛い現実をネタにしつつも、
それをうまく「異能力者が共存する社会」という設定に落とし込むことで、単なる“本音ぶっちゃけもの”にならずに済んでいるんですね。
●メタから物語へ着地することができるか
今回、「不戦無敵の影殺師2」の主人公・朱雀は冒頭でこう独白します。
小説やマンガに出てくる異能力者のことが嫌いだ。
フィクションの異能力者には、ちゃんと敵がいる。
~中略~
しかし、現実はそうはいかない。
倒さないといけない敵なんて、存在しない。仮に悪い奴がいたとしても、大半は警察の管轄で事足りる。
現実の敵はもっとあいまいなものばっかりだ。
(「不戦無敵の影殺師2」プロローグから引用)
つまり、のっけから“バトルもの”の嘘くささを指摘しているわけです。
で、この巻のクライマックスで、「真の敵」が見えてきます。
それは「御大」と呼ばれる「黒幕」であり、名前もない「組織」。
まあ、“ベタ”ですよね。つまりこれはメタ的でもあるんでしょう。
いちいち異能力者の技を漢字表記にしてそれに英語のルビをふっているのと同じで、
あえて“ラノベの“お約束”を踏襲しているわけです。
ヒーローは何と戦うのか。もしくは何のために戦うのか。
すでに多くの名作が追求している、ある意味、手あかのついたテーマとも言えるでしょう。
なので、生半可なオチでは一気に陳腐化してしまう危険性があります。
しかし今回、この鬼門ともいうべき難しいテーマを
あえて、メタ目線を踏まえつつ入れてきたということは、
森田氏なりの覚悟があってのことでしょうから、ここは期待せざるを得ません。
単なる、業界に対するあてこすりに終わらせることなく、
物語としてきちんとおとしまえをつけることができるかどうか、
いちファンとして最後まで見届けようと思っています。
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