私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!小説アンソロジー感想~彼女たちがいればそれだけでミステリー~
11月15日に『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー』が発売されました。
気がつけば、もう発売されてから1ヶ月ですか。
でも、地域によって書店に並ぶのにかなり差があったようですね。
私も都内在中にもかかわらず、なかなか見つけることができずに焦りましたよ。土日はちょっと都合が悪くて、新宿紀伊国屋とか大きいところには行けませんでしたし。(サイン会を実施したところですから、さすがに発売日には並んでいたことでしょう)
あまりプッシュしてないのでしょうか、都内書店で見かけるようになったのも11月20日過ぎあたりでしたし、平棚展開をしているところもあまりなかったように感じました。
ようやく最近になって16巻と合わせて並べているところを見るようになりましたが……
まあ確実にゲットしたい方はネットで注文したほうがいいかもしれません。
さる11月26日に開催された「刊行記念トークショー」にいった方のレポートによると、「売れたら第二、第三弾もあるかも」とのことですので、みなさんぜひ買いましょうね。(なお出版社の方針なのか、電子書籍版はないようです)
というわけで、かなり遅くなってしまいましたが、小説アンソロジーの感想を綴っていこうと思います。
各話タイトルと執筆された作家さんは以下の通り。
●モテないし夏休みのとある一日…………谷川ニコ
●私がウレないのはどう考えても読者が悪い!…………辻真先
●前髪は空を向いている…………青崎有吾
●夏帆…………相沢沙呼
●モテないしラブホに行く…………円居挽
基本ネタバレなしで各話語っていきますが、ある程度内容には触れますので気になる方はご注意ください。
それでは見てまいりましょう!
まずは表紙から見ていきましょう。
判型も同じですし、ほぼコミックスに寄せてる感じですねw
もしかして、本編と間違って買われることを期待しているのかw
まあ何にせよ、表紙はもちろんのこと各話挿絵も描き下ろしですし、何より谷川ニコ本人(原作)の小説が読めるわけですから、これはファンとして買わない手はありません。
表紙のイラストはもちろん各エピソードをモチーフにしたものになっています。
講談社BOX(笑)を抱えてペンを構えているもこっちは辻先生の「私がウレないのはどう考えても読者が悪い!」、左のスケッチブックを眺めているゆりちゃんは円居先生の「モテないしラブホに行く」、その隣の謎の(笑)メガネ黒髪少女は相沢先生の「夏帆」、もこっちに視線をむけている小宮山さんは谷川先生の「モテないし夏休みのとある一日」、上を見上げている岡田は青崎先生の「前髪は空を向いている」ですね。
……あれ?右側のうっちーはいったいなんだろうな…
いや、各作品を読めばわかるんですけど、今回彼女が主人公の話って特にないんですよ。
強いて言えば「モテないしラブホに行く」なんでしょうけど、それだってほぼ脇役だし、そもそもゆりちゃんがいるし……
正直もうひとり入れるなら、加藤さんか吉田さんなんですよね。彼女たちはそれぞれ「夏帆」と「前髪は空を向いている」で重要な役目を果たしていますし、普通に考えれば彼女たちのほうがふさわしいと思うんです。
なのになぜ、谷川ニコさんはあえてうっちーを描いたのか。
うーん、これこそが、今回のアンソロジー最大の謎なのかもしれません?w
裏はこんな感じ。
いやあ、改めて錚々たる顔ぶれですね。マジで業界を代表するビッグネームばかりでびびりますw
星海社なんてマイナー出版社(失礼!)から出ると最初聞いたときは、それこそwebでしか活動していないなんちゃって作家さんを集めたものなのかと思っていましたw 本当にごめんなさい!
まずはなんといっても辻真先先生!
ミステリ界の大御所というより、日本の漫画アニメの礎を築いた脚本家・原作者ですね。御年87、まさにレジェンドオブレジェンドな方です。何しろ「鉄腕アトム」から脚本を書かれている方ですからw(言っときますけど、白黒の時代のやつですからね)
個人的にはアニメ「うる星やつら」のクレジットで知った方でした。もう40年近くになりますが、その当時からすでに超大御所な存在でしたよw
ミステリ作家としても数々の実績を持っている方で、最近でも今年、第23回日本ミステリー文学大賞を受賞されています。
そうそう、今回参加されている青崎有吾先生は第22回鮎川哲也賞でデビューされた方なんですけど、そのときの選考員でもあるんですよ。受賞作は「体育館の殺人」という作品で、文庫版では解説も書かれているんですけど、その内容がまた最高なんです。
何しろ、「新本格ミステリ作家に重度のアニメファンが多いのは公然の秘密だが〜(中略)〜「『とらドラ!』のキャラを援用するのに、大河でなく川嶋亜美ちゃんを使ったところに、センスが偲ばれる」と、ぼくに感想を漏らした作家もおいでである。」なんて文章がいきなり出てくるんですからw こんなぶっとんでる87歳っています?もう本当に尊敬するというか、こういう歳の取り方をしたいものだとつくづく思いますね。
そして、その第22回鮎川哲也賞作家の青崎有吾先生。
「体育館の殺人」から始まる「裏染天馬シリーズ」が有名ですね。◯◯館の殺人というのは、もちろん綾辻行人の「館シリーズ」へのオマージュ。その本格ミステリとしての完成度の高さから「平成のエラリークイーン」の異名を持つ、今期待の若手作家です。(まだ28歳!)
「裏染天馬シリーズ」に関しては、2年前の「2017年を適当に振り返る~ラノベ・ライト文芸を中心とした個人的回顧録~」という記事の中で軽く触れていますので、興味のある方は是非どうぞ。
本格ミステリといっても、辻先生の解説からもわかるように、バリバリのアニメオタクネタもふんだんに取り入れたラノベテイスト満載の青春ものになっていますので、内容自体はミステリファンじゃなくても軽い感じで楽しめると思いますよ。(主人公のキャラと時々顔を出す百合風味で人を選ぶかもしれませんが)
相沢沙呼先生は、その鮎川哲也賞の第19回受賞作家。つまり青崎先生の先輩ですw
この人は今年になって大ブレイクした感がありますね。何しろ、最新作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」で「このミステリーがすごい!2020年版」(宝島社)、「2020本格ミステリ・ベスト10」(原書房)、「2019年ベストブック」(Apple Books)で各第1位の3冠達成!(「ベストブック」はベストミステリー部門での選出)
さらに「週刊文春ミステリーベスト10(2019年)」では5位というのですからもう圧巻というしかありません。本当、こんな人がわたモテのアンソロなんて書いてていいのかと思ってしまうくらいですw
相沢沙呼さんは「小説の神様」(来年実写映画化されるそうです)が初めて読んだ作品だったんですけど、これがミステリ色のない、すごく心に響く青春小説だったんですよね。(と同時に切実な「小説論」にもなっています)
その後も「ココロ・ファインダ」「雨の降る日は学校に行かない」といった、思春期の少女たちの切実な痛みを描いた作品ばかりを読んでいたので、あまりミステリ作家というイメージがなかったんです。
なので、今回の突然の脚光を浴び方は正直面食らってますw
基本文庫しか読まない人間なんですけど、「medium 霊媒探偵城塚翡翠」はかなり興味がありますね。ちょっと単行本で読んでみようかなあと今考えているところです。(なんかミーハーっぽくて恥ずかしいですけどw)
今回の作家陣の中で唯一作品を読んだことのないのが、円居挽先生。(“まどい・ばん”と読むようです)
ゲームのノベライズである「FGOミステリーシリーズ」を版元・星海社で書かれている方で、今回の中では一番版元との縁が近い人のようですね。ていうか、なんでもツイッター界隈では「わたモテ大好きおじさん」(笑)として有名で、今回の企画もまずこの方の参加から始まったのだとか。
ていうかこの人、京都大学推理小説研究会の出身なんですね。Wikipediaで見てびっくりしましたよ。綾辻行人さんの後輩じゃないですか!本当、こんな人がわたモテの(ry。
円居さんが講談社BOXでデビューなのであの表紙なのかと思いきや、あとがきを読むとどうやら関係ないようですね。(もこっちが持っているのも円居さんの単行本ではなくって、アンソロ表紙の入れ子状態になっているようです。うーん細かい!)
しかし、見事なまでにミステリ作家ばかりという……
もしかして、ミステリ界で今わたモテがブームになっているんでしょうかw
さて、次からは各話ひとつひとつ見ていくことにします。
●モテないし夏休みのとある一日(谷川ニコ)
最初からいきなり原作者というのもどうなのかという気もしないでもないですが、まあそんなことはどうでもいいですね。
原作の谷川ニコも初小説で参戦ということで、とにかく今回最大の注目ポイントだと思うのですが、まず結論からいいましょう。
もうダントツでこれが一番面白かった!
いや、ミステリ界の錚々たるメンバーを差し置いて何言ってんだと思われるかもしれませんが、こればっかりは譲れませんね。文章的なうまさとか小説としての完成度は置いておくとして、「わたモテ」としてはもう比べ物にならないくらいの差でしたよ。
「刊行記念トークショー」のレポートでも、円居さんが「これは書けない、これは神にしかできない、先に読んでいたら自分は書けなかった」と語ったそうですが、すごく素直な感想だと思いますね。
とどのつまり、わたモテの世界は神(谷川ニコ)にしか描けないということなんです。
内容としては、「こみもこ」です。
夏休みのある日、ひょんなことから小宮山さんともこっちが一緒に映画を見ることになるという、まあいってみれば実に他愛のない話です。
ただこれらがもこっちの一人称スタイルで語られるので、彼女が小宮山さんをどう見ているのかが作者本人の手で描かれるというのがファンにとってはたまらないところでしょう。
で、これがすごいんですよ。「絵のないわたモテ」になっているんです。要するに「わたモテ本編」なんですよこれ。ほらタイトルもいかにもマンガでありそうじゃないですか、「モテないし夏休みのとある一日」ってw
世界線としても本編ルートそのものですね。たぶん谷川さんもそのつもりで書いていると思います。なのでこれを読まないということは、わたモテを一話読み逃していると同じですよ、いやマジで。
そもそも冒頭からして、本編・喪155「モテないしもむ」とつながっているんです。加藤さんから借りた英語単語帳で勉強しているシーンから始まっているんですから。ある意味、これから本編で語られる内容の先取りになっていると言ってもいいくらいですよ。(作中では高校3年夏休みの8月1日の話になっています)
そして、ここでのもこっち語りがまた原作のノリそのもので、まず吹き出さずに読み進めるのは不可能になっているんですw
まったく、小説だから大丈夫だろうと通勤電車の中で読んでいたらえらい目にあいましたw
ネタ的にもかなりきわどいというか、それこそ喪168で出てきたような同人エロネタをぶっこんできたりしているので要注意ですw
エロネタ以外にも、ナノマシン的なもの(笑)とか加藤さん圧ネタとか、本編で出てくるようなものばかりで、普通にわたモテの新作として楽しめるクオリティがありましたよ。
しかし、なんといってもすごかったのは、「こみもこ」の距離感の描写!
あの絶妙さは誰にも真似できませんね。(実は他の作家さんの作品でひとつだけ「こみもこ」を少し描いたものがあるのですが、申し訳ないですけど谷川さんの後では違和感しかありませんでした…まあ差し込まれたネタはそれなりに面白かったのですが)
いや、全然感動系でも切ない感じでもないんですよ。本編同様、いつもの殺伐(笑)としたやり取りに終始しています。
でもね。なんかエモいんです。グッとこみあげるものがあるんです。
こればっかりは、とにかく読んでくださいとしか言えませんね。
それと、もこっちの小宮山さんの呼び方がころころ変わるところもなんかよくわからないけどよかった!
こみなんとかさん、コミサム、こみさん、挙げ句の果てには、こみなんさんw
これらがランダムに出てくるんで戸惑いすら覚えましたw
で、ひとつだけ「小宮山さん」と読んでいる箇所があるんですよ。ここがもうエモい!そして熱い!
はっきりいって、谷川さんを冒頭に持ってきたのは構成として失敗でしたね。
とにかく最初があまりに凄すぎて、正直、後の作品が少し霞んで見えましたw
…ただまあ、強いて難点をあげるとすれば、ここにも挿絵が欲しかったかなあ。(ていうか、なぜ作者だけ挿絵をつけないのかよくわからんw)
●私がウレないのはどう考えても読者が悪い!(辻真先)
ある意味、今回最大の問題作といっていいかもしれません。Amazonのレビューでもなんか大人気のようですしw
まあ確かになんの予備知識もないままいきなりこれを読まされたら、「なんじゃこりゃ」となるのもいかしかたないと思います。
ただ、辻真先さんの作風をある程度知っていると、別段驚くようなものでもないんですよ。もともと、ミステリーデビュー作である「仮題・中学殺人事件」からしてむちゃくちゃな作品でしたしw メタミステリというか、小説という枠そのものを飛び越えようという意志の元で書かれたある種の実験小説なんです。
なので、ああいう支離滅裂な内容もむしろ辻先生らしいなと思いましたね。
ただ、さすがに擁護できるのはここまで。とても面白かったとは言えるようなものではありませんでした。
内容としては、念願(?)の小説家デビューを果たしたもこっちが、なぜかかつての同級生らから原稿の追い立てを食らうというナンセンスものなのですが、作中作とか、活字いじりとか、はっきり言って、すでに手垢のついた手法ばかりなんですね。そんなのは大昔に筒井康隆などがさんざんやり尽くしたものですから。
ていうか、夢の入れ子構造とか、ほとんど「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」だしw
正直、ギャグもすべっていましたし、褒めるところを探すのにも苦労するような一編でした。
やりたいことはわかるんだけど今さらこれをやられてもなあ…というのが率直な感想ですね。
でも、最後にもうひとつ擁護させてもらうなら、一つくらいはこういうテイストのものがあって然るべきだろうとは思います。
というのも、他の作品がみんな真面目過ぎるんですよ。わたモテ愛が強すぎるのか、いわゆる真っ当な「青春小説」ばかりなんです。
わたモテという作品は本来もっとふざけていいと思うんですよね。笑いが主体の青春ギャグものなんですから。ましてや「小説アンソロ」というお遊び企画ならなおさらです。キャラだけ借りてまったく別の世界観を構築するのもアリだと思うんですよ。それこそミステリ作家なら「もしももこっちが探偵だったら」とか、そういうノリも欲しいところなんです。
はっきり言って今回のアンソロで笑えたのって、谷川さんの作品だけでしたからね。(円居さんのパロネタは少しクスッとするものもありましたけど)ガチな青春もいいけど、ギャグマンガとしてのわたモテも忘れないで欲しいものです。
そんな中、ちゃんと「ナンセンス」なわたモテを追求しようとした辻真先先生の姿勢は実に素晴らしい!(結果失敗はしてるけどw)
まったく、なに年寄り一人に汚れ役を押し付けてんだと声を大にして言いたいですねw
●前髪は空を向いている(青崎有吾)
まったくミステリ色のない、どストレートな青春小説でした。
「平成のエラリークイーン」ともあろう方がこれでいいのか(笑)という気もしないでもないですが、「令和」になったことですし、まあいいのかもしれませんw 最近では本格もの以外にもいろんなジャンルを手がけているようですし。
内容としては、あーちゃんこと岡田視点の青春ものです。まあ、タイトルですぐにわかるかと思いますがw
そう、岡田のあの「パイナップル」頭です。あのヘアスタイルに彼女が込めている思いとはという話なんですが、これももう実に岡田らしいんですね。まさに青春!という感じなんです。青崎さんのその解釈に、わたモテファンなら誰もが納得すると思いますよ。
舞台設定としては「球技大会」直前ですね。季節は6月、本編では喪149のころとほぼ重なります。
今回、他の作品もそうなのですが(辻先生は除くw)、わたモテ本編と同時系列のストーリーになっているんですね。
なので、最近のわたモテエピソードとリンクさせているんです。この話でいえば「球技大会」時にどういう経過で各キャラが卓球とソフトボールに分かれたのか、ですね。
そういった意味では、プロの作家さんのわたモテパロを読むというより、あくまで一ファンとしてのひとつの解釈を読んでいる感じがありましたね。なるほど青崎さんはこういう見方をしているのか、みたいな。
岡田が他のキャラをどういう風に見ているのかという部分も、青崎さんはこう考えているのかという感じでの楽しみ方にならざるを得ないところがありました。
ただ、ネモに対する複雑な思い、そして吉田さんとの会話の中で彼女なりの答えを見つけるところは、それらを超えた普遍的なテーマを感じ取ることができましたね。要は「友達」ってなんだろうという素朴な悩みなんですけど、そこには「まだ何者でもない自分」への忸怩たる思いみたいなものがあるわけですよ。そこで語られる岡田の葛藤は青春時代ならばのものだと思うんですね。
でも最近。
好きなはずのこの髪が、ちょっと重い。(78ページより引用)
この一文にはグッときましたよ。
もう「青春」のすべてがつまっていると思いますね。
なお余談ですけど、「2020本格ミステリ・ベスト10」にて、「期待の新鋭・気鋭」として青崎さんが紹介されているのですが、そこで今回のアンソロについて触れられています。
いわく、「十一月刊の競作集『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!小説アンソロジー』に収録の「前髪は空を向いている」は非ミステリ短編集だ。今までは本格ミステリ作家であることを貫いてきた青崎の、瑞々しい青春小説の書き手としての資質が前面に出ている」とのこと。
私もまったく同感ですね。
●夏帆(相沢沙呼)
さてお次は、今やミステリ界の旗手といってもよいくらいの旬の作家さんによる一遍。
実はタイトルを見たときには、これは本格的なミステリ作品ぽいぞと思っていたんですよね。女性の名前を題名にしたものって、なんとなくミステリのイメージがあるんです。
ところが、これまた、全然ミステリじゃないんですよ。まったく、これだけミステリ作家を集めていながら、いったいどういうことなんでしょうかw
まあそんなことはどうでもよくって、内容としては、もちろん「夏帆」さんのお話です。
そう、あの加藤さんと仲の良いそばかすっ娘ですね。喪146でようやく名前が判明したくらいの、まだレギュラーキャラともいえないような新米キャラを題材に選ぶとは、意外に思われた方も多かったのではないでしょうか。
ただ、読んでみて思ったのですが、このチョイスは今回の企画に合わせて考えたものだったのかなという印象を受けました。
というのも、正直、他の作家さんが岡田なり、ゆりちゃんなり、はたまた小宮山さんを描いた文章を読むとどうしても違和感を拭えないんですよ。いやいや彼女はこんなことは言わないだろうとか思ってしまうんですね。つまり、自分の中でわたモテキャラとしてのイメージとどこか食い違っているんです。
それは、他の作家さんたちのわたモテ理解度が弱いということではありません。むしろ、私なんかよりよっぽど読みこんで愛情を込めてながら描いていることは、文章からはっきりと伝わってきます。要するに、それぞれが自分だけのゆりちゃん像やこみさん像を持っているわけで、どちらが正しいという問題ではないんです。
なので、先ほども青崎さんのところで述べたように、「ひとつの解釈」としての楽しみ方になってしまうわけなんですね。
これはアンソロジーという企画の性格上、どうしても起こり得る問題のような気がします。
そこで、夏帆ですよ。
相沢さんは「まだファンの中でイメージが固まっていない」キャラを題材として選ぶことで、その問題を回避しようとしたのではないでしょうか。
実際、原作においてもまだ謎の多いキャラですからね。どうして加藤さんと仲が良いのかはもとより、どういう性格なのかすらはっきりしていないわけで、そこに作家ならばの想像力を働かせる余地があるわけです。
表紙に描かれた後ろ向きのメガネ美少女は高校に入学したばかりの夏帆です。
あえて顔を描かなかったのは、谷川さんなりの配慮なのでしょう。おそらく本編で夏帆の過去が語られることはないはずです。だからこそこういう描き方をした。
ある意味、そうすることで「ミステリ」色を出したかったのかもしれませんね。
というか、大きくとらえれば、やっぱりこれは青春ミステリだったような気がしてきました。
夏帆という少女が加藤さんと出会うことで、「青春」という謎を解き明かしていく物語……こう言っちゃうと、さすがにクサすぎだとは思いますが、そもそも「夏帆」という名前そのものにミステリ的な要素を込めているんですよね。最後まで読むとわかりますが、これが“伏線”となっているんです。
夏の風を受けて膨らむ“帆”。
これがどういう意味を持つのかはここでは控えますが、原作のあの話につながっていくのか!という驚きと感動は、読んでいて実にすがすがしいものでした。まるで夏の風が香ってくるかのようでしたよ。
個人的には、今回の中で一番好きな小説ですね。(もちろん谷川さんを除いて、ですがw)
●モテないしラブホに行く(円居挽)
大トリは円居挽先生。
今回唯一といってもいい、待望の(笑)「ミステリ」作品になっています。
物語は、もこっちがゆりちゃんに関するある「疑惑」を荻野から聞かされることから始まります。
なんでも「幕張本郷駅のラブホテル街で、田村ゆりによく似た女子生徒を見た」とのこと。それが本当なら、下手すると退学になりかねません。
そこから、もこっちが疑惑を晴らすべく奮闘するという感動の友情ストーリーが展開していくわけです。(一部、いや、かなり脚色が入っていますw)
果たしてラブホテル街で目撃された生徒は本当にゆりちゃんなのか、というミステリ的な面白さもさることながら、友達の無実を証明すべくアリバイを実証しようとするもこっちの姿は、まさにミステリ小説の主人公そのもの。
最後にきて、ようやく本格ミステリ(?)が味わえる趣向になっています。
そうそう今回、目次の隣ページに幕張周辺地図がのっているんですけど、これはこの話の為にあるようなものですね。やっぱりミステリといえば、「館内図」とか「周辺図」が付きものじゃないですか。何度も最初の地図に戻って見返しながら推理していくのがミステリ小説の醍醐味ってものですから。
しかし、そうはいってもやっぱりわたモテ、いたるところで漫画やアニメなどのパロネタが挿入されていて、雰囲気としてはなんともゆるい感じで楽しめるものになっています。
ミステリとしての真相はまあしょうもないというか、脱力するようなものなんですけど、すごいのはそこに至るまでの“伏線”の張りかたですね。
具体的なことは控えますけど、作中内で頻繁に登場するマンガ・アニメネタの中に鍵が隠されているとだけ言っておきましょう。一見関係のない部分に真実を隠すというのはある意味、ミステリの常套手段ともいえますが、さすがにこんなくだらないところにタネを隠していたとは……
これには、ミステリを読みなれた方でもやられた!となるんじゃないでしょうか。いやあ、さすがプロのミステリ作家は違うなと感服した結末でしたよ。
結末といえば、最後の締め方もさすがミステリ作家だというものになっていました。
要は、それまでの主人公視点から一転して、ある人物の語りで幕を下ろすわけなんですけど、これがまあなんともミステリっぽい感じでうまいんですよ。いわゆるミステリあるあるみたいなものですね。
わたモテのキャラでミステリをやってみました、という趣向としてはなかなかのものになっていたと思います。
あと、注目すべきところといえば、「ゆりちゃんの表情問題」にひとつの答えを出したということでしょうか。
今までもファンの間で、ゆりちゃんにはバージョン1、2、3、4の4人いるとか、いろいろ議論(?)を巻き起こしたわけですが、その謎についても円居さんなりの解答を提示してくれています。
これがまた実にエモいというか、「青春」ぽい理由が用意されているんですよ。
説得力があるかどうかはともかく(笑)、テーマとしてはかなり感心させられました。
ある意味、叙述トリックといってもいいかもしれません?
いや、総合的にみれば、本当によくできていたと思います。
小説的な面白さからいえば、これが一番なのではないでしょうか。
ただ、この人ズルいんですよ。
最初に手を挙げた権限をフルに使って、自分だけ倍以上のページ数をもらっただけではなく、挿絵も彼だけ2枚描いてもらってるんですから!
そりゃ、それなりに読み応えのあるミステリになりますよw
なので、素直にすごいとは言いたくない気持ちも若干ありますw
面白さでいえば、円居さんが一番と言えるかもしれませんが、やっぱり好きな作品はとなると、「夏帆」一択ですねw
正直、ここまで「ちゃんとした」小説が読めるとは思っていませんでした。
しょせんは企画ものですし、お遊び感覚満載の作品集になると踏んでいたんですよね。
ほら、アニメ放映時頃にスクエニが出したコミックアンソロジーなんかはそんなノリだったじゃないですか。冒頭の谷川さんもひどい(褒め言葉)内容でしたしw
なので初めは、戸惑いも少しありましたね。
ていうか、みんな真面目過ぎますよw 谷川さんも含めて何本気出してんですかw
まあそれはさておき、結果として期待を遥かに超える作品集になっていたと思います。
どの作品もわたモテ愛にあふれるものになっていて、わたモテ好きなら必ずやお気に入りの作品に出会えることでしょう。
というか、アンソロジーというより、むしろスピンオフ的な印象を受けましたね。
まあ辻先生のだけは別枠とするにせよ(笑)、他はどれもわたモテの番外編として組み込まれても何も不思議じゃないくらいの出来だったのではないでしょうか。
それにしても、改めて「青春」ものとミステリって相性が合うんだなと思いましたね。
今回、ミステリ界を代表する作家さんばかりが集まったのも納得ですよ。
人の心はそれ自体が謎というか、一筋縄ではいかないものですけど、10代の頃のそれはまた違った意味で謎ばかりじゃないですか。
特に事件が起こらなくっても、彼女たちがそこにいるだけでそれは「ミステリー」になり得るんです。
岡田や夏帆、そしてゆりちゃんの内に秘めている思いが明らかになる過程は、まさに青春の謎(ミステリ)を解き明かしていく快感に近いものがありましたよ。
もし次回があるなら、今度はSFやライトノベル系の作家さんの参加も期待したいですね。
まあとにかく、「モテないし夏休みのとある一日」だけでも買う価値はあります。これだけでも是非!
(あと、谷川さんのあとがきも必読!単行本のあとがきマンガのあのテイストがまんま文章になっていますw)
欠点は値段だけ?(笑) ファンなら必読のアンソロジー!
「仮題・中学殺人事件 」 辻真先、衝撃(?)のミステリデビュー作!
「焼跡の二十面相」 なんと87歳にして、今年(2019)も新作を出しています。いまだ現役バリバリ!
「体育館の殺人」 青崎有吾のデビュー作。まずはこちらで「平成のエラリークイーン」ぶりを堪能してみては。
「早朝始発の殺風景」 現時点での青崎有吾最新作。
「小説の神様」 相沢沙呼の心の叫びがエンタメとして昇華している傑作です。
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」 ミステリランキング3冠達成!ようやく時代が相沢沙呼に追いついた!?
「FGOミステリー 翻る虚月館の告解 虚月館殺人事件」「FGOミステリー 惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件」
「Fate/Grand Order」というゲームのイベントシナリオを手掛けた円居挽が自らノベライズした作品とのこと。
気がつけば、もう発売されてから1ヶ月ですか。
でも、地域によって書店に並ぶのにかなり差があったようですね。
私も都内在中にもかかわらず、なかなか見つけることができずに焦りましたよ。土日はちょっと都合が悪くて、新宿紀伊国屋とか大きいところには行けませんでしたし。(サイン会を実施したところですから、さすがに発売日には並んでいたことでしょう)
あまりプッシュしてないのでしょうか、都内書店で見かけるようになったのも11月20日過ぎあたりでしたし、平棚展開をしているところもあまりなかったように感じました。
ようやく最近になって16巻と合わせて並べているところを見るようになりましたが……
まあ確実にゲットしたい方はネットで注文したほうがいいかもしれません。
さる11月26日に開催された「刊行記念トークショー」にいった方のレポートによると、「売れたら第二、第三弾もあるかも」とのことですので、みなさんぜひ買いましょうね。(なお出版社の方針なのか、電子書籍版はないようです)
というわけで、かなり遅くなってしまいましたが、小説アンソロジーの感想を綴っていこうと思います。
各話タイトルと執筆された作家さんは以下の通り。
●モテないし夏休みのとある一日…………谷川ニコ
●私がウレないのはどう考えても読者が悪い!…………辻真先
●前髪は空を向いている…………青崎有吾
●夏帆…………相沢沙呼
●モテないしラブホに行く…………円居挽
基本ネタバレなしで各話語っていきますが、ある程度内容には触れますので気になる方はご注意ください。
それでは見てまいりましょう!
まずは表紙から見ていきましょう。

判型も同じですし、ほぼコミックスに寄せてる感じですねw
もしかして、本編と間違って買われることを期待しているのかw
まあ何にせよ、表紙はもちろんのこと各話挿絵も描き下ろしですし、何より谷川ニコ本人(原作)の小説が読めるわけですから、これはファンとして買わない手はありません。
表紙のイラストはもちろん各エピソードをモチーフにしたものになっています。
講談社BOX(笑)を抱えてペンを構えているもこっちは辻先生の「私がウレないのはどう考えても読者が悪い!」、左のスケッチブックを眺めているゆりちゃんは円居先生の「モテないしラブホに行く」、その隣の謎の(笑)メガネ黒髪少女は相沢先生の「夏帆」、もこっちに視線をむけている小宮山さんは谷川先生の「モテないし夏休みのとある一日」、上を見上げている岡田は青崎先生の「前髪は空を向いている」ですね。
……あれ?右側のうっちーはいったいなんだろうな…
いや、各作品を読めばわかるんですけど、今回彼女が主人公の話って特にないんですよ。
強いて言えば「モテないしラブホに行く」なんでしょうけど、それだってほぼ脇役だし、そもそもゆりちゃんがいるし……
正直もうひとり入れるなら、加藤さんか吉田さんなんですよね。彼女たちはそれぞれ「夏帆」と「前髪は空を向いている」で重要な役目を果たしていますし、普通に考えれば彼女たちのほうがふさわしいと思うんです。
なのになぜ、谷川ニコさんはあえてうっちーを描いたのか。
うーん、これこそが、今回のアンソロジー最大の謎なのかもしれません?w
裏はこんな感じ。

いやあ、改めて錚々たる顔ぶれですね。マジで業界を代表するビッグネームばかりでびびりますw
星海社なんてマイナー出版社(失礼!)から出ると最初聞いたときは、それこそwebでしか活動していないなんちゃって作家さんを集めたものなのかと思っていましたw 本当にごめんなさい!
まずはなんといっても辻真先先生!
ミステリ界の大御所というより、日本の漫画アニメの礎を築いた脚本家・原作者ですね。御年87、まさにレジェンドオブレジェンドな方です。何しろ「鉄腕アトム」から脚本を書かれている方ですからw(言っときますけど、白黒の時代のやつですからね)
個人的にはアニメ「うる星やつら」のクレジットで知った方でした。もう40年近くになりますが、その当時からすでに超大御所な存在でしたよw
ミステリ作家としても数々の実績を持っている方で、最近でも今年、第23回日本ミステリー文学大賞を受賞されています。
そうそう、今回参加されている青崎有吾先生は第22回鮎川哲也賞でデビューされた方なんですけど、そのときの選考員でもあるんですよ。受賞作は「体育館の殺人」という作品で、文庫版では解説も書かれているんですけど、その内容がまた最高なんです。
何しろ、「新本格ミステリ作家に重度のアニメファンが多いのは公然の秘密だが〜(中略)〜「『とらドラ!』のキャラを援用するのに、大河でなく川嶋亜美ちゃんを使ったところに、センスが偲ばれる」と、ぼくに感想を漏らした作家もおいでである。」なんて文章がいきなり出てくるんですからw こんなぶっとんでる87歳っています?もう本当に尊敬するというか、こういう歳の取り方をしたいものだとつくづく思いますね。
そして、その第22回鮎川哲也賞作家の青崎有吾先生。
「体育館の殺人」から始まる「裏染天馬シリーズ」が有名ですね。◯◯館の殺人というのは、もちろん綾辻行人の「館シリーズ」へのオマージュ。その本格ミステリとしての完成度の高さから「平成のエラリークイーン」の異名を持つ、今期待の若手作家です。(まだ28歳!)
「裏染天馬シリーズ」に関しては、2年前の「2017年を適当に振り返る~ラノベ・ライト文芸を中心とした個人的回顧録~」という記事の中で軽く触れていますので、興味のある方は是非どうぞ。
本格ミステリといっても、辻先生の解説からもわかるように、バリバリのアニメオタクネタもふんだんに取り入れたラノベテイスト満載の青春ものになっていますので、内容自体はミステリファンじゃなくても軽い感じで楽しめると思いますよ。(主人公のキャラと時々顔を出す百合風味で人を選ぶかもしれませんが)
相沢沙呼先生は、その鮎川哲也賞の第19回受賞作家。つまり青崎先生の先輩ですw
この人は今年になって大ブレイクした感がありますね。何しろ、最新作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」で「このミステリーがすごい!2020年版」(宝島社)、「2020本格ミステリ・ベスト10」(原書房)、「2019年ベストブック」(Apple Books)で各第1位の3冠達成!(「ベストブック」はベストミステリー部門での選出)
さらに「週刊文春ミステリーベスト10(2019年)」では5位というのですからもう圧巻というしかありません。本当、こんな人がわたモテのアンソロなんて書いてていいのかと思ってしまうくらいですw
相沢沙呼さんは「小説の神様」(来年実写映画化されるそうです)が初めて読んだ作品だったんですけど、これがミステリ色のない、すごく心に響く青春小説だったんですよね。(と同時に切実な「小説論」にもなっています)
その後も「ココロ・ファインダ」「雨の降る日は学校に行かない」といった、思春期の少女たちの切実な痛みを描いた作品ばかりを読んでいたので、あまりミステリ作家というイメージがなかったんです。
なので、今回の突然の脚光を浴び方は正直面食らってますw
基本文庫しか読まない人間なんですけど、「medium 霊媒探偵城塚翡翠」はかなり興味がありますね。ちょっと単行本で読んでみようかなあと今考えているところです。(なんかミーハーっぽくて恥ずかしいですけどw)
今回の作家陣の中で唯一作品を読んだことのないのが、円居挽先生。(“まどい・ばん”と読むようです)
ゲームのノベライズである「FGOミステリーシリーズ」を版元・星海社で書かれている方で、今回の中では一番版元との縁が近い人のようですね。ていうか、なんでもツイッター界隈では「わたモテ大好きおじさん」(笑)として有名で、今回の企画もまずこの方の参加から始まったのだとか。
ていうかこの人、京都大学推理小説研究会の出身なんですね。Wikipediaで見てびっくりしましたよ。綾辻行人さんの後輩じゃないですか!本当、こんな人がわたモテの(ry。
円居さんが講談社BOXでデビューなのであの表紙なのかと思いきや、あとがきを読むとどうやら関係ないようですね。(もこっちが持っているのも円居さんの単行本ではなくって、アンソロ表紙の入れ子状態になっているようです。うーん細かい!)
しかし、見事なまでにミステリ作家ばかりという……
もしかして、ミステリ界で今わたモテがブームになっているんでしょうかw
さて、次からは各話ひとつひとつ見ていくことにします。
●モテないし夏休みのとある一日(谷川ニコ)
最初からいきなり原作者というのもどうなのかという気もしないでもないですが、まあそんなことはどうでもいいですね。
原作の谷川ニコも初小説で参戦ということで、とにかく今回最大の注目ポイントだと思うのですが、まず結論からいいましょう。
もうダントツでこれが一番面白かった!
いや、ミステリ界の錚々たるメンバーを差し置いて何言ってんだと思われるかもしれませんが、こればっかりは譲れませんね。文章的なうまさとか小説としての完成度は置いておくとして、「わたモテ」としてはもう比べ物にならないくらいの差でしたよ。
「刊行記念トークショー」のレポートでも、円居さんが「これは書けない、これは神にしかできない、先に読んでいたら自分は書けなかった」と語ったそうですが、すごく素直な感想だと思いますね。
とどのつまり、わたモテの世界は神(谷川ニコ)にしか描けないということなんです。
内容としては、「こみもこ」です。
夏休みのある日、ひょんなことから小宮山さんともこっちが一緒に映画を見ることになるという、まあいってみれば実に他愛のない話です。
ただこれらがもこっちの一人称スタイルで語られるので、彼女が小宮山さんをどう見ているのかが作者本人の手で描かれるというのがファンにとってはたまらないところでしょう。
で、これがすごいんですよ。「絵のないわたモテ」になっているんです。要するに「わたモテ本編」なんですよこれ。ほらタイトルもいかにもマンガでありそうじゃないですか、「モテないし夏休みのとある一日」ってw
世界線としても本編ルートそのものですね。たぶん谷川さんもそのつもりで書いていると思います。なのでこれを読まないということは、わたモテを一話読み逃していると同じですよ、いやマジで。
そもそも冒頭からして、本編・喪155「モテないしもむ」とつながっているんです。加藤さんから借りた英語単語帳で勉強しているシーンから始まっているんですから。ある意味、これから本編で語られる内容の先取りになっていると言ってもいいくらいですよ。(作中では高校3年夏休みの8月1日の話になっています)
そして、ここでのもこっち語りがまた原作のノリそのもので、まず吹き出さずに読み進めるのは不可能になっているんですw
まったく、小説だから大丈夫だろうと通勤電車の中で読んでいたらえらい目にあいましたw
ネタ的にもかなりきわどいというか、それこそ喪168で出てきたような同人エロネタをぶっこんできたりしているので要注意ですw
エロネタ以外にも、ナノマシン的なもの(笑)とか加藤さん圧ネタとか、本編で出てくるようなものばかりで、普通にわたモテの新作として楽しめるクオリティがありましたよ。
しかし、なんといってもすごかったのは、「こみもこ」の距離感の描写!
あの絶妙さは誰にも真似できませんね。(実は他の作家さんの作品でひとつだけ「こみもこ」を少し描いたものがあるのですが、申し訳ないですけど谷川さんの後では違和感しかありませんでした…まあ差し込まれたネタはそれなりに面白かったのですが)
いや、全然感動系でも切ない感じでもないんですよ。本編同様、いつもの殺伐(笑)としたやり取りに終始しています。
でもね。なんかエモいんです。グッとこみあげるものがあるんです。
こればっかりは、とにかく読んでくださいとしか言えませんね。
それと、もこっちの小宮山さんの呼び方がころころ変わるところもなんかよくわからないけどよかった!
こみなんとかさん、コミサム、こみさん、挙げ句の果てには、こみなんさんw
これらがランダムに出てくるんで戸惑いすら覚えましたw
で、ひとつだけ「小宮山さん」と読んでいる箇所があるんですよ。ここがもうエモい!そして熱い!
はっきりいって、谷川さんを冒頭に持ってきたのは構成として失敗でしたね。
とにかく最初があまりに凄すぎて、正直、後の作品が少し霞んで見えましたw
…ただまあ、強いて難点をあげるとすれば、ここにも挿絵が欲しかったかなあ。(ていうか、なぜ作者だけ挿絵をつけないのかよくわからんw)
●私がウレないのはどう考えても読者が悪い!(辻真先)
ある意味、今回最大の問題作といっていいかもしれません。Amazonのレビューでもなんか大人気のようですしw
まあ確かになんの予備知識もないままいきなりこれを読まされたら、「なんじゃこりゃ」となるのもいかしかたないと思います。
ただ、辻真先さんの作風をある程度知っていると、別段驚くようなものでもないんですよ。もともと、ミステリーデビュー作である「仮題・中学殺人事件」からしてむちゃくちゃな作品でしたしw メタミステリというか、小説という枠そのものを飛び越えようという意志の元で書かれたある種の実験小説なんです。
なので、ああいう支離滅裂な内容もむしろ辻先生らしいなと思いましたね。
ただ、さすがに擁護できるのはここまで。とても面白かったとは言えるようなものではありませんでした。
内容としては、念願(?)の小説家デビューを果たしたもこっちが、なぜかかつての同級生らから原稿の追い立てを食らうというナンセンスものなのですが、作中作とか、活字いじりとか、はっきり言って、すでに手垢のついた手法ばかりなんですね。そんなのは大昔に筒井康隆などがさんざんやり尽くしたものですから。
ていうか、夢の入れ子構造とか、ほとんど「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」だしw
正直、ギャグもすべっていましたし、褒めるところを探すのにも苦労するような一編でした。
やりたいことはわかるんだけど今さらこれをやられてもなあ…というのが率直な感想ですね。
でも、最後にもうひとつ擁護させてもらうなら、一つくらいはこういうテイストのものがあって然るべきだろうとは思います。
というのも、他の作品がみんな真面目過ぎるんですよ。わたモテ愛が強すぎるのか、いわゆる真っ当な「青春小説」ばかりなんです。
わたモテという作品は本来もっとふざけていいと思うんですよね。笑いが主体の青春ギャグものなんですから。ましてや「小説アンソロ」というお遊び企画ならなおさらです。キャラだけ借りてまったく別の世界観を構築するのもアリだと思うんですよ。それこそミステリ作家なら「もしももこっちが探偵だったら」とか、そういうノリも欲しいところなんです。
はっきり言って今回のアンソロで笑えたのって、谷川さんの作品だけでしたからね。(円居さんのパロネタは少しクスッとするものもありましたけど)ガチな青春もいいけど、ギャグマンガとしてのわたモテも忘れないで欲しいものです。
そんな中、ちゃんと「ナンセンス」なわたモテを追求しようとした辻真先先生の姿勢は実に素晴らしい!(結果失敗はしてるけどw)
まったく、なに年寄り一人に汚れ役を押し付けてんだと声を大にして言いたいですねw
●前髪は空を向いている(青崎有吾)
まったくミステリ色のない、どストレートな青春小説でした。
「平成のエラリークイーン」ともあろう方がこれでいいのか(笑)という気もしないでもないですが、「令和」になったことですし、まあいいのかもしれませんw 最近では本格もの以外にもいろんなジャンルを手がけているようですし。
内容としては、あーちゃんこと岡田視点の青春ものです。まあ、タイトルですぐにわかるかと思いますがw
そう、岡田のあの「パイナップル」頭です。あのヘアスタイルに彼女が込めている思いとはという話なんですが、これももう実に岡田らしいんですね。まさに青春!という感じなんです。青崎さんのその解釈に、わたモテファンなら誰もが納得すると思いますよ。
舞台設定としては「球技大会」直前ですね。季節は6月、本編では喪149のころとほぼ重なります。
今回、他の作品もそうなのですが(辻先生は除くw)、わたモテ本編と同時系列のストーリーになっているんですね。
なので、最近のわたモテエピソードとリンクさせているんです。この話でいえば「球技大会」時にどういう経過で各キャラが卓球とソフトボールに分かれたのか、ですね。
そういった意味では、プロの作家さんのわたモテパロを読むというより、あくまで一ファンとしてのひとつの解釈を読んでいる感じがありましたね。なるほど青崎さんはこういう見方をしているのか、みたいな。
岡田が他のキャラをどういう風に見ているのかという部分も、青崎さんはこう考えているのかという感じでの楽しみ方にならざるを得ないところがありました。
ただ、ネモに対する複雑な思い、そして吉田さんとの会話の中で彼女なりの答えを見つけるところは、それらを超えた普遍的なテーマを感じ取ることができましたね。要は「友達」ってなんだろうという素朴な悩みなんですけど、そこには「まだ何者でもない自分」への忸怩たる思いみたいなものがあるわけですよ。そこで語られる岡田の葛藤は青春時代ならばのものだと思うんですね。
でも最近。
好きなはずのこの髪が、ちょっと重い。(78ページより引用)
この一文にはグッときましたよ。
もう「青春」のすべてがつまっていると思いますね。
なお余談ですけど、「2020本格ミステリ・ベスト10」にて、「期待の新鋭・気鋭」として青崎さんが紹介されているのですが、そこで今回のアンソロについて触れられています。
いわく、「十一月刊の競作集『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!小説アンソロジー』に収録の「前髪は空を向いている」は非ミステリ短編集だ。今までは本格ミステリ作家であることを貫いてきた青崎の、瑞々しい青春小説の書き手としての資質が前面に出ている」とのこと。
私もまったく同感ですね。
●夏帆(相沢沙呼)
さてお次は、今やミステリ界の旗手といってもよいくらいの旬の作家さんによる一遍。
実はタイトルを見たときには、これは本格的なミステリ作品ぽいぞと思っていたんですよね。女性の名前を題名にしたものって、なんとなくミステリのイメージがあるんです。
ところが、これまた、全然ミステリじゃないんですよ。まったく、これだけミステリ作家を集めていながら、いったいどういうことなんでしょうかw
まあそんなことはどうでもよくって、内容としては、もちろん「夏帆」さんのお話です。
そう、あの加藤さんと仲の良いそばかすっ娘ですね。喪146でようやく名前が判明したくらいの、まだレギュラーキャラともいえないような新米キャラを題材に選ぶとは、意外に思われた方も多かったのではないでしょうか。
ただ、読んでみて思ったのですが、このチョイスは今回の企画に合わせて考えたものだったのかなという印象を受けました。
というのも、正直、他の作家さんが岡田なり、ゆりちゃんなり、はたまた小宮山さんを描いた文章を読むとどうしても違和感を拭えないんですよ。いやいや彼女はこんなことは言わないだろうとか思ってしまうんですね。つまり、自分の中でわたモテキャラとしてのイメージとどこか食い違っているんです。
それは、他の作家さんたちのわたモテ理解度が弱いということではありません。むしろ、私なんかよりよっぽど読みこんで愛情を込めてながら描いていることは、文章からはっきりと伝わってきます。要するに、それぞれが自分だけのゆりちゃん像やこみさん像を持っているわけで、どちらが正しいという問題ではないんです。
なので、先ほども青崎さんのところで述べたように、「ひとつの解釈」としての楽しみ方になってしまうわけなんですね。
これはアンソロジーという企画の性格上、どうしても起こり得る問題のような気がします。
そこで、夏帆ですよ。
相沢さんは「まだファンの中でイメージが固まっていない」キャラを題材として選ぶことで、その問題を回避しようとしたのではないでしょうか。
実際、原作においてもまだ謎の多いキャラですからね。どうして加藤さんと仲が良いのかはもとより、どういう性格なのかすらはっきりしていないわけで、そこに作家ならばの想像力を働かせる余地があるわけです。
表紙に描かれた後ろ向きのメガネ美少女は高校に入学したばかりの夏帆です。
あえて顔を描かなかったのは、谷川さんなりの配慮なのでしょう。おそらく本編で夏帆の過去が語られることはないはずです。だからこそこういう描き方をした。
ある意味、そうすることで「ミステリ」色を出したかったのかもしれませんね。
というか、大きくとらえれば、やっぱりこれは青春ミステリだったような気がしてきました。
夏帆という少女が加藤さんと出会うことで、「青春」という謎を解き明かしていく物語……こう言っちゃうと、さすがにクサすぎだとは思いますが、そもそも「夏帆」という名前そのものにミステリ的な要素を込めているんですよね。最後まで読むとわかりますが、これが“伏線”となっているんです。
夏の風を受けて膨らむ“帆”。
これがどういう意味を持つのかはここでは控えますが、原作のあの話につながっていくのか!という驚きと感動は、読んでいて実にすがすがしいものでした。まるで夏の風が香ってくるかのようでしたよ。
個人的には、今回の中で一番好きな小説ですね。(もちろん谷川さんを除いて、ですがw)
●モテないしラブホに行く(円居挽)
大トリは円居挽先生。
今回唯一といってもいい、待望の(笑)「ミステリ」作品になっています。
物語は、もこっちがゆりちゃんに関するある「疑惑」を荻野から聞かされることから始まります。
なんでも「幕張本郷駅のラブホテル街で、田村ゆりによく似た女子生徒を見た」とのこと。それが本当なら、下手すると退学になりかねません。
そこから、もこっちが疑惑を晴らすべく奮闘するという感動の友情ストーリーが展開していくわけです。(一部、いや、かなり脚色が入っていますw)
果たしてラブホテル街で目撃された生徒は本当にゆりちゃんなのか、というミステリ的な面白さもさることながら、友達の無実を証明すべくアリバイを実証しようとするもこっちの姿は、まさにミステリ小説の主人公そのもの。
最後にきて、ようやく本格ミステリ(?)が味わえる趣向になっています。
そうそう今回、目次の隣ページに幕張周辺地図がのっているんですけど、これはこの話の為にあるようなものですね。やっぱりミステリといえば、「館内図」とか「周辺図」が付きものじゃないですか。何度も最初の地図に戻って見返しながら推理していくのがミステリ小説の醍醐味ってものですから。
しかし、そうはいってもやっぱりわたモテ、いたるところで漫画やアニメなどのパロネタが挿入されていて、雰囲気としてはなんともゆるい感じで楽しめるものになっています。
ミステリとしての真相はまあしょうもないというか、脱力するようなものなんですけど、すごいのはそこに至るまでの“伏線”の張りかたですね。
具体的なことは控えますけど、作中内で頻繁に登場するマンガ・アニメネタの中に鍵が隠されているとだけ言っておきましょう。一見関係のない部分に真実を隠すというのはある意味、ミステリの常套手段ともいえますが、さすがにこんなくだらないところにタネを隠していたとは……
これには、ミステリを読みなれた方でもやられた!となるんじゃないでしょうか。いやあ、さすがプロのミステリ作家は違うなと感服した結末でしたよ。
結末といえば、最後の締め方もさすがミステリ作家だというものになっていました。
要は、それまでの主人公視点から一転して、ある人物の語りで幕を下ろすわけなんですけど、これがまあなんともミステリっぽい感じでうまいんですよ。いわゆるミステリあるあるみたいなものですね。
わたモテのキャラでミステリをやってみました、という趣向としてはなかなかのものになっていたと思います。
あと、注目すべきところといえば、「ゆりちゃんの表情問題」にひとつの答えを出したということでしょうか。
今までもファンの間で、ゆりちゃんにはバージョン1、2、3、4の4人いるとか、いろいろ議論(?)を巻き起こしたわけですが、その謎についても円居さんなりの解答を提示してくれています。
これがまた実にエモいというか、「青春」ぽい理由が用意されているんですよ。
説得力があるかどうかはともかく(笑)、テーマとしてはかなり感心させられました。
ある意味、叙述トリックといってもいいかもしれません?
いや、総合的にみれば、本当によくできていたと思います。
小説的な面白さからいえば、これが一番なのではないでしょうか。
ただ、この人ズルいんですよ。
最初に手を挙げた権限をフルに使って、自分だけ倍以上のページ数をもらっただけではなく、挿絵も彼だけ2枚描いてもらってるんですから!
そりゃ、それなりに読み応えのあるミステリになりますよw
なので、素直にすごいとは言いたくない気持ちも若干ありますw
面白さでいえば、円居さんが一番と言えるかもしれませんが、やっぱり好きな作品はとなると、「夏帆」一択ですねw
正直、ここまで「ちゃんとした」小説が読めるとは思っていませんでした。
しょせんは企画ものですし、お遊び感覚満載の作品集になると踏んでいたんですよね。
ほら、アニメ放映時頃にスクエニが出したコミックアンソロジーなんかはそんなノリだったじゃないですか。冒頭の谷川さんもひどい(褒め言葉)内容でしたしw
なので初めは、戸惑いも少しありましたね。
ていうか、みんな真面目過ぎますよw 谷川さんも含めて何本気出してんですかw
まあそれはさておき、結果として期待を遥かに超える作品集になっていたと思います。
どの作品もわたモテ愛にあふれるものになっていて、わたモテ好きなら必ずやお気に入りの作品に出会えることでしょう。
というか、アンソロジーというより、むしろスピンオフ的な印象を受けましたね。
まあ辻先生のだけは別枠とするにせよ(笑)、他はどれもわたモテの番外編として組み込まれても何も不思議じゃないくらいの出来だったのではないでしょうか。
それにしても、改めて「青春」ものとミステリって相性が合うんだなと思いましたね。
今回、ミステリ界を代表する作家さんばかりが集まったのも納得ですよ。
人の心はそれ自体が謎というか、一筋縄ではいかないものですけど、10代の頃のそれはまた違った意味で謎ばかりじゃないですか。
特に事件が起こらなくっても、彼女たちがそこにいるだけでそれは「ミステリー」になり得るんです。
岡田や夏帆、そしてゆりちゃんの内に秘めている思いが明らかになる過程は、まさに青春の謎(ミステリ)を解き明かしていく快感に近いものがありましたよ。
もし次回があるなら、今度はSFやライトノベル系の作家さんの参加も期待したいですね。
まあとにかく、「モテないし夏休みのとある一日」だけでも買う価値はあります。これだけでも是非!
(あと、谷川さんのあとがきも必読!単行本のあとがきマンガのあのテイストがまんま文章になっていますw)
欠点は値段だけ?(笑) ファンなら必読のアンソロジー!
「仮題・中学殺人事件 」 辻真先、衝撃(?)のミステリデビュー作!
「焼跡の二十面相」 なんと87歳にして、今年(2019)も新作を出しています。いまだ現役バリバリ!
「体育館の殺人」 青崎有吾のデビュー作。まずはこちらで「平成のエラリークイーン」ぶりを堪能してみては。
「早朝始発の殺風景」 現時点での青崎有吾最新作。
「小説の神様」 相沢沙呼の心の叫びがエンタメとして昇華している傑作です。
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」 ミステリランキング3冠達成!ようやく時代が相沢沙呼に追いついた!?
「FGOミステリー 翻る虚月館の告解 虚月館殺人事件」「FGOミステリー 惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件」
「Fate/Grand Order」というゲームのイベントシナリオを手掛けた円居挽が自らノベライズした作品とのこと。
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