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ラノベと一般の違いはどこにあるのか ~キャラクター文芸の2作を読んでみて感じたこと~

以前、新潮文庫nexのことを取り上げたときにもちらっと書きましたが、
今はライトノベルと一般のエンターテイメントの区別ってあまり意味がないと思うんですね。

最近、角川が「キャラクター文芸編集部」なるツイッターアカウントを取ってまで売り込んでいるのも、
要するに、ラノベと一般エンタの垣根をとっぱらって、
両方の読者が増えるように相乗効果を狙ってのことでしょう。

●キャラクター重視がラノベでストーリー重視が一般?

それにしても、“キャラクター”“文芸”の造語でアピールしているということは、
逆説的に「文芸」には本来“キャラクター”がいないということでしょうかね?

では「文芸」って何でしょう?
よく“キャラクター”重視か“ストーリー”重視かが議論になったりしますが、
そもそもなんで“キャラ”と“物語”が対立しなければならないのかわかりません。
どちらも重要でいいんじゃないかと単純な私は思ってしまうんですが(笑)。

まあ、「文芸」では“キャラ”ではなく、“人間”が描けているかどうかだ、といった議論もあるのかもしれませんが、私にはどうも言葉を弄んでいるだけのように思えます。
“キャラ”を通じても“人間”は表現できるでしょう。「古典部シリーズ」の折木奉太郎千反田えるも明らかに“キャラ”ではありますが、彼らはすごく“人間”くさいですよ。
要は深みのある“キャラ”造形ができているかどうかだけの問題な気がするんですね。

●「櫻子さん」シリーズと「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ

で、その「キャラクター文芸」ですが、
chara-bungei01.jpg

こちらの折り込みで、特に「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」(太田紫織)と
ホーンテッド・キャンパス」(櫛木理宇)のふたつがクローズアップされていたようでしたので、
まずはとりあえず、各1巻を読んでみました。

chara-bungei02-2.jpg

ホーンテッド・キャンパス」は角川ホラー文庫から出ていますが、正直言ってホラーとは思えません。角川自身は“青春オカルトミステリ”と銘打っていますが、ミステリ色も薄いですし、冒頭には普通にイラスト付きのキャラクター紹介も載っています。仮にスニーカー文庫から出ていてもまったく違和感がないですね。

ちなみにこちらは櫛木理宇氏のデビュー作で、第19回ホラー小説大賞・読者賞を受賞していて、現在、5巻まで出ているようです。

chara-bungei02-1.jpg

櫻子さんの足下には死体が埋まっている」は“最強キャラ×ライトミステリ”ともっか、角川がプッシュ中の人気作のようで、確かにヒロインの九条櫻子という“キャラ”はなかなか強烈でした。骨しか興味がないような浮世離れしたお嬢様が骨にまつわる事件を次々と解決して行くという形式は確かにライトミステリというべき感じで、メディアワークス文庫から出ていてもおかしくない作品ですね。

これは太田紫織氏が小説投稿サイト「E★エブリスタ」で発表したものを改稿したもので、後に書き下ろしで5巻まで出ています。

このふたつのシリーズ、
連作短編集という形も同じならば、語り部である主人公も同じ“超草食”系、おまけに1巻最後の話もどちらも「降霊会」がテーマだったりと、何かと共通点があって、
なんだかそのこと自体が内容そのものよりも面白かったですね(笑)。

両方とも文章は意外なほどしっかりしていますし、割とスムースに物語の世界に入っていけます。

ただねえ……。言われるほど、“キャラクター”が魅力的に思えなかったんですよね。
正直、「キャラクター文芸」と謳っていながらそれではと、ちょっと首をかしげたくなりました。

「ホーンテッド」の主人公八神森司くんも「櫻子さん」の主人公館脇正太郎くんも物語の語り部にすぎず、基本傍観者なので、
どうにも感情移入も共感もしずらいんですよ。
また、ヒロインの灘このみや九条櫻子もキャラ性は確かに独特ですが、なぜそういうパーソナリティになったのか、バックボーンが読み取れないため、あまり魅力的には感じられませんでした。

ただ、まだシリーズ1巻目ですので、この段階で評価を下してしまうのは早計かな、という気もします。
以前にも書きましたが、「古典部シリーズ」も「葉山くんシリーズ」も一作目はそこそこといった感じでしたが、2巻以降からむちゃくちゃ面白くなりましたし。

巻を重ねるごとにキャラクターたちが動き始めて面白くなっていくというのがシリーズ物の魅力でもありますから、
この2つのシリーズもここからエンジンが加速していくかもしれませんし、時間をみて2巻以降も読んでみようかなとは思ってはいます。

●レーベルの違いなんて出版社の都合にすぎない

さて、この折り込みには他にも
GOSICK」シリーズ(桜庭一樹)や「今日からマ王!」シリーズ(喬林知)といった、かつてライトノベルレーベルから出ていたものや、
「サクラダリセット」の河野裕氏の「北野坂探偵舎」シリーズなどが紹介されていて、まさにラノベも一般も一緒くたといった様相になっています。

こうしてみていくと、けっきょく、これらの作品がなぜ、ライトノベルレーベルから出ていないかと言えば、
「キャラクター文芸」なる戦略上の一環でしかないんですね。

まあ強いていうなら、ネットネタやスラング、オタクネタがあるかないかでしょうかね。
最近は中高生向けかどうかというよりは、オタネタを内包するかどうかで、レーベルを決めている部分もある気もしますしね。
ライトノベル=ヤングアダルト(中高生向け)ではなく、ライトノベル=オタものといった感じで。

●カテゴリーもジャンルも大雑把でいい

こう考えていくと、出ているレーベルで内容を判断するなんてナンセンスに思えてくるんですね。
最近は、◯◯向けとか、「それがどこをターゲットにしているか」にこだわる風潮がありますが、
そもそも昔から日本の娯楽は大人向けも子供向けもけっこういいかげんでした。

江戸川乱歩の猟奇ものが子供向けにリメイクされていたり、
平井和正や筒井康隆などのSF界の大物がアニメの脚本やジュブナイルを書いていたり……。

まあ、SFやミステリといったジャンル自体がキワモノというか子供向け扱いされていた一面もあったわけですが、
そういった土壌が、例えば「デビルマン」や「漂流教室」といった歴史的名作が少年マンガから出てきたりしたわけです。
これは日本が誇るべき文化形態だと思うんですね。

カテゴリーやジャンルに良い意味で大雑把であることが、
他国にはない日本特有のサブカルチャーを築き上げていたわけですから、
あまりレーベルや出版社で考えすぎないほうが、思わぬ出会いもあるような気がします。

もちろん、売る側はいろいろ付加価値をつけつつ戦略を練るのは当たり前のことですし、そこは別にいいのですが、
楽しむ側としては、あまり外に貼ってあるレッテルにはとらわれずに、ただ、より面白いエンターテイメントを求めていければいいのかなと思いますね。

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)
(2012/10/25)
櫛木 理宇

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櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)
(2013/02/23)
太田 紫織

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ぬるく切なくだらしなく。 オタクにも一般人にもなれなかった、昭和40年代生まれの「なりそこない」がライトノベルや漫画を主観丸出しで書きなぐるところです。 滅びゆくじじいの滅びゆく日々。 ブログポリシーはこちら

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