「読む」と「描く」はつながっている~「描く!」マンガ展に行ってきて~
さる8月7日に、川崎市市民ミュージアムで開催されている『「描く!」マンガ展』に行ってきたのですが、
これがもうむちゃくちゃ面白かったです。
「描く!」マンガ展 ~名作を生む画技に迫る―描線・コマ・キャラ~
主催:川崎市市民ミュージアム
期間:2016年07月23日-2016年09月25日
出品作家:赤塚不二夫、石ノ森章太郎、手塚治虫、藤子不二雄Ⓐ、水野英子
あずまきよひこ、さいとう・たかを、島本和彦、竹宮惠子、平野耕太、PEACH-PIT、陸奥A子、諸星大二郎
詳しくはこちらでご確認ください。
(2017年3月2日~4月16日からは、京都国際マンガミュージアムでも開催されます)
ここ最近、毎年のようにいろんな美術館などで「マンガ」をテーマにした展示会が催されますが、
今回のは、特に見るべき価値のある展示会といっても過言ではないでしょう。
ほんと、絶対にオススメですよ。
まず、このコンセプトビジュアルが素晴らしいじゃないですか。
デューク東郷とよつばのコラボ!
このインパクトはすごいですよ。
マンガにあまり興味がない人にも、「マンガの表現の幅広さ、奥深さ」が一発でわかりますからね。
これだけでも、これまでの「美術館のマンガ展」とは一線を画していることは明らかです。
また、構成がいいんですよ。
今までの「マンガ展」って、ミクロ的に一人の作家さんに焦点をあてた個展的な意味合いのものか、
年表を主体としてマンガ史全体を俯瞰するようなマクロ的な展示会が多かったような気がするのですが、
『「描く!」マンガ展』は巨匠5名、現代作家8名、計13人のマンガ家さんに絞って展示しているんです。
この多からず少なからずのバランスが、
今展示会のコンセプトである「描く!」にうまく合致しているんですね。
取り上げる作家さんの数が少ないと、様々な「描線」の独自性が実感できませんし、
あまり多くの作家さんを取り上げると、散漫になって印象に残りづらくなりますから。
そう、この「描く」というところに注目したのが、今回の展示会の面白いところなんですよ。
これは監修の伊藤剛氏が目録に書いていたことですが、
本来マンガというものは「読む」ものなんですね。
普通「見る」とか「鑑賞」するとかは言わないわけです。
そこには「物語」や「世界」が介在していて、それを読者が体験することで成り立つ表現なんです。
つまり、通常の「美術作品」とは違うわけで、それをギャラリーに展示するということは、
本来の「マンガ」の目的から離れることになるわけです。
そう考えるとマンガの「原画」を展示して「鑑賞」するということは、
普通の「絵画」を鑑賞することとはまた違った意味があるんです。
印刷物では感じきれない、生の原画の「描く!」を、是非感じ取ってほしいですね。
さて、今展示会は第一章、第二章、第3章の3つのパートに分かれています。
まず、第一章は「トキワ荘」の巨匠、5名のマンガ家の作品を展示してあります。
ここでは、手塚治虫が小学3年生のときに描いた「ピンピン生チャン」をはじめ、
主に巨匠たちの年少時代から新人のころの貴重な原画を取り上げているため、当然のことながら撮影は不可となっています。
ここで注目すべきことは、
手塚治虫だろうと赤塚不二夫だろうと、当たり前のことですが最初はみんな「読者」側だったということですね。
そして、誰もが一度はするように、その読者はやがて「好きなマンガをまねて」描きはじめます。(今展示会では「描く読者」と名付けています)
ノートに鉛筆で描いた自作のマンガをクラスで回し読みしたり、そんなところから手塚治虫も始まっているわけですよ。
つまり「読む」と「描く」はつながっているんです。
ここにマンガの最大の特性があるんだと改めて感じさせる展示になっていましたね。
第二章は今展示会の大きなメインですね。
さいとう・たかを、竹宮惠子、陸奥A子、諸星大二郎、島本和彦、平野耕太、あずまきよひこ、PEACH-PIT。
以上現代人気マンガ家8名の貴重な原画や資料が満載です。
まあ正直、この8人全員のファンだという人はまずいないでしょう。
(当日ギャラリーツアーをしてくださった監修の伊藤剛氏もそうおっしゃっていましたw)
でも、好きだとか知っているとか関係なく、実際の展示を見たらもう圧倒されますよ。
実はこの第二章から撮影OKなんですけど、あまり原画を撮る気にはなりませんでしたね。(資料関係は貴重なので撮りましたが)
だって、あれは実際に目の前で見るからすごいんですよ。
あとから画像として見ても、記録としてあの感動までは残せないなあと思わせるんです。
これはもう見てもらうしかないですね。線の一本一本まですべて眺めていたくなるんですからw
もういくら時間があっても足りません!
この日私は、2時間+伊藤剛氏によるギャラリーツアー1時間を費やしたのですが、
まだまだ1/3くらいしか堪能していない感じかもw
これから観覧しようという方は、是非時間に余裕を持って回ることをオススメしますね。
あと、展の半券を提示することで2回目の観覧料が通常料金の半額になるリピーター割引もあるので、かしこく利用しましょう!
さて、ここからはざっと印象に残ったところを語っていきましょうか。
今回の展示会で、個人的に一番面白かったのは、この田中圭一氏の各作家さんの解説ですね。
田中圭一さんといえば、「パクリ」を独自の芸風にしてしまった(笑)、とんでもないマンガ家さんなのですが、
彼の「描線」に対する造詣の深さは本当にすごいです。
(諸星大二郎の解説なんかは、伊藤剛氏も田中圭一氏の指摘で初めて気づいたと驚かれていましたw)
この解説もすごいですよね。
手塚治虫がさいとうたかをから影響を受けていたなんて!
「マンガのタッチをどうやって再現するか」ということを常に考えているからこそ、わかることなんでしょうかねえ……
「風と木の詩」の下書き。
もうほとんど完成されているというか、右の原稿とあまり変わらないのがすごすぎます…
竹宮惠子の展示物はどれも、下絵の段階でなんていうか、すでに「読ませるマンガ」になっていましたね。

左は陸奥A子も所属していた「アズ漫画研究会」の当時の貴重な活動記録。
右はCOMなど、いわゆるそれまでの少年誌とは一線を画すマニアックな雑誌の創刊号の数々。
伊藤剛氏のギャラリー解説で一番印象的だったのが、
60年代まではただ単純に「マンガを読む」だけだったのが、
70年代に入ると、「マンガを読む私」という自意識が生まれ始めたという話でした。
COMは「マンガエリートのためのマンガ専門誌」というキャッチコピーで、
「マンガ評論」や「読者投稿欄」もある画期的な内容で今の同人文化の先駆けになったともいえる雑誌で、
「アズ漫画研究会」は北九州を中心に今も活動を続けている漫画同人グループなのですが、
これらの流れによって、「マンガをよむ」という行為が自覚的になっていったというのですよ。
で、それが「マンガ」を読み解く、ということにつながり、
その後、80年代になってあの島本和彦を生んだ(!)というのですから驚きです。
まあ、それまでの「お約束」を相対化してパロディにするというのは
別にマンガに限らず、80年代以降の大きな流れでもあったので、
COMがあったから「炎の転校生」が生まれた、とまでは思いませんが、
かなり興味深い話だとは思いますね。
というわけで、その島本和彦氏による「アオイホノオ」創作ノート。
もう見ているだけで無性に熱くなってきますよねw
これなんかはもっとじっくり見たかったなあ。
今回の参加マンガ家が発表されてから、
もっともネットで反響があったのが、このヒラコーこと平野耕太氏だそうです。
彼の圧倒的な“絵”とともに、その“セリフ回し”をも同時に「展示」していたのが、なんとも印象的というか、
「わかってるなあ!」感がすごかったですねw
「田中圭一の着眼点!」でも特に感心させられたのがこの諸星大二郎論。
確かに諸星大二郎って不思議なタッチというか、原点がわかりませんよね。
「描画の異端児」とはよくいったものです。
その中でも“カケアミ”に注目するとはさすがとしか言いようがありません。
田中氏はこれを“諸星カケアミ””と名付けたのですが、
「諸星大二郎編2」では宮崎駿こそは諸星大二郎直系のマンガ家であるという結論に達します(笑)
えー?と思われる方も実際に田中圭一の「模写」を見ればすぐに納得するはずですよ。
是非会場に行ってチェックしてみてください!
ちなみに、諸星大二郎というマンガ家は、一般的にはそれほど知名度は高くないかもしれませんが、
その影響力たるや、とてつもない人なんですよ。
まさにアーティストズアーティストという感じで、リスペクターはあらゆる分野に広がっています。
解説にも宮崎駿、庵野秀明、細野晴臣、京極夏彦といった人たちが挙げられていましたが、
私としては何より「高橋留美子」を真っ先に挙げたいですね。
なにしろ「うる星やつら」の主人公・諸星あたるは、彼からその名前をいただいているのですから!
右が修正前で、左が修正後の原稿。
こういう比較もこの展示会ならばですね。
あずまきよひこの「よつばと!」といえば、雑誌時と単行本とで大きく修正が入ることで有名ですが、
こうやって、修正前と後とで改めて並んでみると、一目瞭然ですね。
どこがどういう意図で修正されたのかがよくわかります。
(ちなみに「よつばと!」はコミックス10巻前後からデジタル入稿になっており、厳密な意味での生原画は存在しないそうです)
なんで、ぬいぐるみがここに…と思われるかもしれませんが、これも「資料」のひとつ。
そう、ジュラルミンはここから生み出されたわけです。
「よつばと!」という作品は、マンガという誇張された戯画的世界と、私たちが生きているリアルな世界とを繋げようとしているわけですが、
そんな方法論を理屈ではなく実感として目の当たりにできる貴重な展示の数々でしたね。
「田中圭一の着眼点!」の最後は、PEACH-PIT編。
いわゆる「萌えキャラ」の系譜を解説したものですが、
高橋留美子主義者と名乗っている私としては、ここが一番面白かったですw
しかし宮崎駿が高橋留美子タッチに影響受けたのでは、という説はすごいですね。
こうしてみると、宮崎駿って意外といろんな人から影響受けているんだなあw
ただ個人的には、高橋留美子の絵柄って永井豪の影響が実は一番強いんじゃないかと思うんですけどね。
この田中氏の模写もどこか永井豪的な匂いがしません?
それにしても、私は恥ずかしながらPEACH-PIT氏のことはよく知らなかったのですが、
すごくユニークな方法で作品を作り上げている人たちなんですね。
PEACH-PITというのは、えばら渋子氏と千道万里氏の二人によるユニットです。
二人組の漫画家というのは、藤子不二雄からゆでたまごまでいるように、それほど珍しくはないスタイルかもしれません。
でもPEACH-PITがすごいのが、作風やジャンルごとに、二人の分担比重を変えているということなんです。
例えば、この作品は髪をえばら氏で瞳は千道氏、と言う風に、パーツごとに描き分けてバラエティに富んだ絵柄を作っているというのだから驚きです。
二人で作画をしている映像もここでは観れるのですが、もう本当びっくりしましたよ。
この衝撃は是非多くの人に味わってほしいですね。
最後の第三章は、今、そして未来に続く「描く」道具や環境を紹介しています。
具体的にはpixivといったプラットフォームや最新の作画ソフトなどを紹介しつつ、
過去から未来まで「描く技術」はつながっているんだということが実感できるコーナーになっていましたね。
石森章太郎の「マンガ家入門」や上條淳士の表紙が印象的な「マンガスーパーテクニック講座」といった、
歴代の「漫画技法書」も展示されていました。
私にはやっぱり、高橋留美子表紙の「コミック劇画村塾創刊号」が懐かしくも感慨深かったです(笑)
それにしても、手塚治虫が小学生の時に鉛筆描きした「ピンピン生チャン」から始まって、
リアルタイムで更新されていくpixivの投稿作品で締めるという構成がなんともにくいですね。
時代がどんなに変わろうとも、根本的な「描く!」楽しさ面白さは普遍的なものなんだと
本当に実感させられましたよ。
はっきり言って、まだまだ見足りません。
一日中ずっと居ても飽きない自信がありますねw
8月23日からは一部展示替えもするそうですし、何度行ってもいく度に新たな発見があることでしょう。
武蔵小杉駅からバスで10分という、アクセス的にはちょっと難があることは否めませんが、
等々力公園や丸子橋など、周りも素晴らしい場所がたくさんありますし、
行楽がてら、寄ってみるというのもいいんじゃないでしょうか。
マンガファンはもちろんですが、むしろマンガにあまり詳しくない人にこそお薦めしたい展示会だと思います。是非!
これがもうむちゃくちゃ面白かったです。
「描く!」マンガ展 ~名作を生む画技に迫る―描線・コマ・キャラ~
主催:川崎市市民ミュージアム
期間:2016年07月23日-2016年09月25日
出品作家:赤塚不二夫、石ノ森章太郎、手塚治虫、藤子不二雄Ⓐ、水野英子
あずまきよひこ、さいとう・たかを、島本和彦、竹宮惠子、平野耕太、PEACH-PIT、陸奥A子、諸星大二郎
詳しくはこちらでご確認ください。
(2017年3月2日~4月16日からは、京都国際マンガミュージアムでも開催されます)
ここ最近、毎年のようにいろんな美術館などで「マンガ」をテーマにした展示会が催されますが、
今回のは、特に見るべき価値のある展示会といっても過言ではないでしょう。
ほんと、絶対にオススメですよ。

まず、このコンセプトビジュアルが素晴らしいじゃないですか。
デューク東郷とよつばのコラボ!
このインパクトはすごいですよ。
マンガにあまり興味がない人にも、「マンガの表現の幅広さ、奥深さ」が一発でわかりますからね。
これだけでも、これまでの「美術館のマンガ展」とは一線を画していることは明らかです。
また、構成がいいんですよ。
今までの「マンガ展」って、ミクロ的に一人の作家さんに焦点をあてた個展的な意味合いのものか、
年表を主体としてマンガ史全体を俯瞰するようなマクロ的な展示会が多かったような気がするのですが、
『「描く!」マンガ展』は巨匠5名、現代作家8名、計13人のマンガ家さんに絞って展示しているんです。
この多からず少なからずのバランスが、
今展示会のコンセプトである「描く!」にうまく合致しているんですね。
取り上げる作家さんの数が少ないと、様々な「描線」の独自性が実感できませんし、
あまり多くの作家さんを取り上げると、散漫になって印象に残りづらくなりますから。
そう、この「描く」というところに注目したのが、今回の展示会の面白いところなんですよ。
これは監修の伊藤剛氏が目録に書いていたことですが、
本来マンガというものは「読む」ものなんですね。
普通「見る」とか「鑑賞」するとかは言わないわけです。
そこには「物語」や「世界」が介在していて、それを読者が体験することで成り立つ表現なんです。
つまり、通常の「美術作品」とは違うわけで、それをギャラリーに展示するということは、
本来の「マンガ」の目的から離れることになるわけです。
そう考えるとマンガの「原画」を展示して「鑑賞」するということは、
普通の「絵画」を鑑賞することとはまた違った意味があるんです。
印刷物では感じきれない、生の原画の「描く!」を、是非感じ取ってほしいですね。
さて、今展示会は第一章、第二章、第3章の3つのパートに分かれています。
まず、第一章は「トキワ荘」の巨匠、5名のマンガ家の作品を展示してあります。
ここでは、手塚治虫が小学3年生のときに描いた「ピンピン生チャン」をはじめ、
主に巨匠たちの年少時代から新人のころの貴重な原画を取り上げているため、当然のことながら撮影は不可となっています。
ここで注目すべきことは、
手塚治虫だろうと赤塚不二夫だろうと、当たり前のことですが最初はみんな「読者」側だったということですね。
そして、誰もが一度はするように、その読者はやがて「好きなマンガをまねて」描きはじめます。(今展示会では「描く読者」と名付けています)
ノートに鉛筆で描いた自作のマンガをクラスで回し読みしたり、そんなところから手塚治虫も始まっているわけですよ。
つまり「読む」と「描く」はつながっているんです。
ここにマンガの最大の特性があるんだと改めて感じさせる展示になっていましたね。
第二章は今展示会の大きなメインですね。
さいとう・たかを、竹宮惠子、陸奥A子、諸星大二郎、島本和彦、平野耕太、あずまきよひこ、PEACH-PIT。
以上現代人気マンガ家8名の貴重な原画や資料が満載です。
まあ正直、この8人全員のファンだという人はまずいないでしょう。
(当日ギャラリーツアーをしてくださった監修の伊藤剛氏もそうおっしゃっていましたw)
でも、好きだとか知っているとか関係なく、実際の展示を見たらもう圧倒されますよ。
実はこの第二章から撮影OKなんですけど、あまり原画を撮る気にはなりませんでしたね。(資料関係は貴重なので撮りましたが)
だって、あれは実際に目の前で見るからすごいんですよ。
あとから画像として見ても、記録としてあの感動までは残せないなあと思わせるんです。
これはもう見てもらうしかないですね。線の一本一本まですべて眺めていたくなるんですからw
もういくら時間があっても足りません!
この日私は、2時間+伊藤剛氏によるギャラリーツアー1時間を費やしたのですが、
まだまだ1/3くらいしか堪能していない感じかもw
これから観覧しようという方は、是非時間に余裕を持って回ることをオススメしますね。
あと、展の半券を提示することで2回目の観覧料が通常料金の半額になるリピーター割引もあるので、かしこく利用しましょう!
さて、ここからはざっと印象に残ったところを語っていきましょうか。

今回の展示会で、個人的に一番面白かったのは、この田中圭一氏の各作家さんの解説ですね。
田中圭一さんといえば、「パクリ」を独自の芸風にしてしまった(笑)、とんでもないマンガ家さんなのですが、
彼の「描線」に対する造詣の深さは本当にすごいです。
(諸星大二郎の解説なんかは、伊藤剛氏も田中圭一氏の指摘で初めて気づいたと驚かれていましたw)
この解説もすごいですよね。
手塚治虫がさいとうたかをから影響を受けていたなんて!
「マンガのタッチをどうやって再現するか」ということを常に考えているからこそ、わかることなんでしょうかねえ……

「風と木の詩」の下書き。
もうほとんど完成されているというか、右の原稿とあまり変わらないのがすごすぎます…
竹宮惠子の展示物はどれも、下絵の段階でなんていうか、すでに「読ませるマンガ」になっていましたね。


左は陸奥A子も所属していた「アズ漫画研究会」の当時の貴重な活動記録。
右はCOMなど、いわゆるそれまでの少年誌とは一線を画すマニアックな雑誌の創刊号の数々。
伊藤剛氏のギャラリー解説で一番印象的だったのが、
60年代まではただ単純に「マンガを読む」だけだったのが、
70年代に入ると、「マンガを読む私」という自意識が生まれ始めたという話でした。
COMは「マンガエリートのためのマンガ専門誌」というキャッチコピーで、
「マンガ評論」や「読者投稿欄」もある画期的な内容で今の同人文化の先駆けになったともいえる雑誌で、
「アズ漫画研究会」は北九州を中心に今も活動を続けている漫画同人グループなのですが、
これらの流れによって、「マンガをよむ」という行為が自覚的になっていったというのですよ。
で、それが「マンガ」を読み解く、ということにつながり、
その後、80年代になってあの島本和彦を生んだ(!)というのですから驚きです。
まあ、それまでの「お約束」を相対化してパロディにするというのは
別にマンガに限らず、80年代以降の大きな流れでもあったので、
COMがあったから「炎の転校生」が生まれた、とまでは思いませんが、
かなり興味深い話だとは思いますね。

というわけで、その島本和彦氏による「アオイホノオ」創作ノート。
もう見ているだけで無性に熱くなってきますよねw
これなんかはもっとじっくり見たかったなあ。

今回の参加マンガ家が発表されてから、
もっともネットで反響があったのが、このヒラコーこと平野耕太氏だそうです。
彼の圧倒的な“絵”とともに、その“セリフ回し”をも同時に「展示」していたのが、なんとも印象的というか、
「わかってるなあ!」感がすごかったですねw

「田中圭一の着眼点!」でも特に感心させられたのがこの諸星大二郎論。
確かに諸星大二郎って不思議なタッチというか、原点がわかりませんよね。
「描画の異端児」とはよくいったものです。
その中でも“カケアミ”に注目するとはさすがとしか言いようがありません。
田中氏はこれを“諸星カケアミ””と名付けたのですが、
「諸星大二郎編2」では宮崎駿こそは諸星大二郎直系のマンガ家であるという結論に達します(笑)
えー?と思われる方も実際に田中圭一の「模写」を見ればすぐに納得するはずですよ。
是非会場に行ってチェックしてみてください!
ちなみに、諸星大二郎というマンガ家は、一般的にはそれほど知名度は高くないかもしれませんが、
その影響力たるや、とてつもない人なんですよ。
まさにアーティストズアーティストという感じで、リスペクターはあらゆる分野に広がっています。
解説にも宮崎駿、庵野秀明、細野晴臣、京極夏彦といった人たちが挙げられていましたが、
私としては何より「高橋留美子」を真っ先に挙げたいですね。
なにしろ「うる星やつら」の主人公・諸星あたるは、彼からその名前をいただいているのですから!

右が修正前で、左が修正後の原稿。
こういう比較もこの展示会ならばですね。
あずまきよひこの「よつばと!」といえば、雑誌時と単行本とで大きく修正が入ることで有名ですが、
こうやって、修正前と後とで改めて並んでみると、一目瞭然ですね。
どこがどういう意図で修正されたのかがよくわかります。
(ちなみに「よつばと!」はコミックス10巻前後からデジタル入稿になっており、厳密な意味での生原画は存在しないそうです)

なんで、ぬいぐるみがここに…と思われるかもしれませんが、これも「資料」のひとつ。
そう、ジュラルミンはここから生み出されたわけです。
「よつばと!」という作品は、マンガという誇張された戯画的世界と、私たちが生きているリアルな世界とを繋げようとしているわけですが、
そんな方法論を理屈ではなく実感として目の当たりにできる貴重な展示の数々でしたね。

「田中圭一の着眼点!」の最後は、PEACH-PIT編。
いわゆる「萌えキャラ」の系譜を解説したものですが、
高橋留美子主義者と名乗っている私としては、ここが一番面白かったですw
しかし宮崎駿が高橋留美子タッチに影響受けたのでは、という説はすごいですね。
こうしてみると、宮崎駿って意外といろんな人から影響受けているんだなあw
ただ個人的には、高橋留美子の絵柄って永井豪の影響が実は一番強いんじゃないかと思うんですけどね。
この田中氏の模写もどこか永井豪的な匂いがしません?
それにしても、私は恥ずかしながらPEACH-PIT氏のことはよく知らなかったのですが、
すごくユニークな方法で作品を作り上げている人たちなんですね。
PEACH-PITというのは、えばら渋子氏と千道万里氏の二人によるユニットです。
二人組の漫画家というのは、藤子不二雄からゆでたまごまでいるように、それほど珍しくはないスタイルかもしれません。
でもPEACH-PITがすごいのが、作風やジャンルごとに、二人の分担比重を変えているということなんです。
例えば、この作品は髪をえばら氏で瞳は千道氏、と言う風に、パーツごとに描き分けてバラエティに富んだ絵柄を作っているというのだから驚きです。
二人で作画をしている映像もここでは観れるのですが、もう本当びっくりしましたよ。
この衝撃は是非多くの人に味わってほしいですね。
最後の第三章は、今、そして未来に続く「描く」道具や環境を紹介しています。
具体的にはpixivといったプラットフォームや最新の作画ソフトなどを紹介しつつ、
過去から未来まで「描く技術」はつながっているんだということが実感できるコーナーになっていましたね。

石森章太郎の「マンガ家入門」や上條淳士の表紙が印象的な「マンガスーパーテクニック講座」といった、
歴代の「漫画技法書」も展示されていました。
私にはやっぱり、高橋留美子表紙の「コミック劇画村塾創刊号」が懐かしくも感慨深かったです(笑)
それにしても、手塚治虫が小学生の時に鉛筆描きした「ピンピン生チャン」から始まって、
リアルタイムで更新されていくpixivの投稿作品で締めるという構成がなんともにくいですね。
時代がどんなに変わろうとも、根本的な「描く!」楽しさ面白さは普遍的なものなんだと
本当に実感させられましたよ。
はっきり言って、まだまだ見足りません。
一日中ずっと居ても飽きない自信がありますねw
8月23日からは一部展示替えもするそうですし、何度行ってもいく度に新たな発見があることでしょう。
武蔵小杉駅からバスで10分という、アクセス的にはちょっと難があることは否めませんが、
等々力公園や丸子橋など、周りも素晴らしい場所がたくさんありますし、
行楽がてら、寄ってみるというのもいいんじゃないでしょうか。
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