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ダ・ヴィンチ9月号にて米澤穂信特集



8月7日発売のダ・ヴィンチ9月号で米澤穂信の特集が載っています。 

davinchi201509.png 

特集といってもまあ、全部で20ページほどですから小特集といってもいいほどのボリュームなのですが、これがけっこう興味深い内容なんですよ。
ファンならずとも、米澤穂信という作家が少しでも気になる方にとって、ぜひ読んでおきたい特集だと思います。

内容としては、
まず、先月発売になった「王とサーカス」に関するインタビュー(4ページ)。
意外にも初の組み合わせとなる、米澤穂信×辻村深月対談(4ページ)。
いかにもダ・ヴィンチらしい企画、読んで聞いて美味しいヨネザワグルメ(2ページ)。
そして最後に、半生を振り返るロングインタビュー(10ページ!)。

以上ですが、何より注目はやっぱり最後のロングインタビューでしょうか。
インタビューもさることながら、下部分に載っている「バイオグラフィー&作品紹介」は、これから米澤穂信ワールドを巡っていこうとしている人にとって、格好の道しるべとなるに違いありません。


●新刊『王とサーカス』インタビュー

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私も今ちょうど読み進めている新刊、「王とサーカス」についてのインタビューです。
なかなか興味深い話が満載で、これがもうファンとしては垂涎ものの内容となっています。

例えば、私はまだ、「ベルーフ」シリーズを読んでいないのですが、
これって、太刀洗視点でなく、周囲の人物視点で書かれているんですね。
で、今回の「王とサーカス」が、初めての太刀洗の一人称視点になるんだそうです。
(そういえば、「さよなら妖精」も守屋が語り手でした」)

これについては最初、米澤さんも
はたして彼女の内面に踏み込んでいいのかという迷いもありました。(ダ・ヴィンチ9月号150ページより引用)
と悩んだらしいんですよ。
でも、今までのような「すでに終わった出来事を主人公に後追いさせる話」ではなく、太刀洗自身が徹頭徹尾挑んでいく話なのだから、他人の眼を通して書くのは逃げだと思ったのだそうです。

たとえば、〈小市民〉シリーズの小佐内だったら、むしろ一人称で書いてはいけない(笑)。でも太刀洗の場合は、心情をブラックボックスにしてはいけないと思いました。(ダ・ヴィンチ9月号150ページより引用)

小佐内さんのくだりで思わず吹き出してしまったんですが(笑)、太刀洗の心情に触れている部分には泣きそうになりましたね。
自分の小説の登場人物に対して、ここまで思えるなんてなんて素晴らしい作家さんだろうと素直に思えます。

外から見たらプロフェッショナルに見えるのに本人の内面は決してそうではなく、自分はこれでいいのか思い悩む人にしたかった。ものすごく優しいし本当は冗談も好きなのに、なかなか周囲にそう思ってもらえない人でもあるんです。(ダ・ヴィンチ9月号150ページより引用)

これは米澤さんの太刀洗に対する人物批評ですが、もう「さよなら妖精」のころとまったく変わっていないことに嬉しくなりますね。ああ、あの太刀洗万智が本当に10年経って戻ってきているんだと実感させられます。(もちろん「王とサーカス」を読めば、10代の太刀洗と20代の太刀洗では大きく成長していることもよくわかります)

他にも「王とサーカス」というタイトルの由来やなぜ実際の事件である「ナラヤンヒティ王宮事件」を題材にしたのかなど、ファンならずとも知りたい話を惜しみなく語っていますので、少しでも興味がある方はぜひ!

ところで、インタビュー最後のページにビッグニュースが載っています。

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なんと、「王とサーカス」そしてさよなら妖精」の太刀洗万智を主人公にした「ベルーフ」シリーズが年内に刊行予定だというのです!
うわマジか、またハードカバーを購入するはめになるのか…(まあ楽しみなんですけどねw)

今まで発表された4編と、8月12日発売「ミステリーズ!」2015年8月号掲載の「真実の10メートル手前」を含めた短編5編をまとめた形になるそうですが、
米澤さんによると
「今、ボーナストラックを入れるかどうかを考え中です(笑)」
とのことですので、これは期待せざるを得ませんね!

米澤穂信×辻村深月対談

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同世代でどちらもミステリーの新人賞出身にもかかわらず、意外にも初対談という二人。

初っ端からお互いの新刊、「王とサーカス」と「朝が来る」のべた褒め合戦で話は盛り上がりますw

辻村「『王とサーカス』を読んで改めて感じたのは、米澤さんの小説はどれも登場人物に対して誠実だということなんです」
米澤「現実は優しいだけのものではない、かといって、厳しいのが現実だというのも一面的な見方である。この世界はもっともっと複雑なんだということを思いきり書かれている」
(ともにダ・ヴィンチ9月号153ページより引用)


出発点が似ているのに、お互いの最新作はこんなに違うことについて、一度お話ししたいと思っての今回の対談企画だったそうなのですが、
こうしてみると「王とサーカス」と「朝が来る」も実はそんなにかけ離れたものではないんじゃないか?と思わせますね(笑)。
どちらも、単純な人物造形をよしとせずに、“社会”とつながっている“人間”を描こうとしているんだなあと、感心させられました。

その後、お互いの「分岐点」となった作者や作品の話になるのですが、
これがまた、実に興味深いものばかりなんです。

辻村さんは岡崎京子江戸川乱歩(特に「蟲」!)をあげていて、
でも岡崎漫画のような“強い女の子”を書くと、「辻村には乱歩とか分からないでしょ」と言われるような気がする、という話が面白かったですね。
米澤さんの『儚き羊たちの祝宴』の女の子のように、「私は本が必要な人間だし、後ろ暗いんです!」と無性に言いたくなるとか、もうねw
ああこういう葛藤って岡崎京子ファンの子にもあったんだ、と勝手にうれしくなっちゃったりしてw

米澤さんはやっぱり北村薫の<円紫さんと私>シリーズ。特に「六の宮の姫君」だそうで、それがデビュー作の「氷菓」にもつながっていったとのこと。
氷菓」と「追想五断章」は実は兄弟のような作品だとという話は、考えもしなかったのでびっくりしたのですが、
どちらも「時代に取り残された、眠ったテキストから過去を掘り起こしていく」と説明されると、おおっ確かに!と変に納得してしまいましたw

(※なお、余談ですが7月27日発売の「ユリイカ 2015年8月号」(江戸川乱歩特集号)ではその北村薫さんと辻村深月さんとの江戸川乱歩についての対談が載っています。偶然でしょうが、面白い巡り合わせですね)

●読んで聞いて美味しいヨネザワグルメ

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<古典部>シリーズの「氷菓」、<小市民シリーズ>の「春期限定いちごタルト事件」など、米澤作品にはお菓子ネタや料理ネタがよく顔を出すということで、いかにもダ・ヴィンチらしいオシャレな企画。

まずは古典部の4人はそれぞれどういう料理ができるのか、という話が米澤さんから語られるのですが、
これがなかなか彼らのキャラクター性をよく捉えていているんですよ。
摩耶花は応用はきくけど、里志やえるは応用が苦手とかね。(奉太郎はどうかは読んでみてのお楽しみ)

どんな食べ物が好きで何が嫌いかということもそうですが、どういう料理を作るかというのは、登場人物の顔が見えてくるポイントになると思っています。(ダ・ヴィンチ9月号156ページより引用)

これは本当にそうですよね。
クドリャフカの順番』の“ワイルド・ファイア”のエピソードなんかはまさにそれで、
米澤さんは本当に、自分のキャラクターたちを単なる「役割」ではなく、顔がある「人間」として命を与えようとしているのだなあとうれしくなってしまいます。

今回の『王とサーカス』でも、太刀洗が現地のてんぷら屋で、
「天ぷらは、上出来ではなかったけれど、嬉しかった」
と感想を抱くシーンがあるのですが、味云々は関係なく“嬉しい”という表現が印象的ですよね。

これは米澤さん自身、海外から帰ってきて空港で食べるべちゃべちゃのカツ丼がたいへん感慨深かったそうで、そういうことが料理にまつわる描写につながっているそうです。

あと、「春期限定いちごタルト事件」を書いた頃は、美味しいスイーツというものに出会ったことがなくって、
ある評論家から“君は本当は甘いものが好きじゃないだろう”と指摘されて、一年発起してスイーツ修行をしたら好きになってしまった、というエピソードには笑ってしまいましたねw
その修行の成果が「夏期限定トロピカルパフェ事件」で花開いたとかw

もちろん、「食べ歩き」が趣味だという米澤さんオススメのお店もいろいろ紹介されています。
ちなみに私は、新宿の“あるでん亭”だけは知っていましたが、他はまったく聞いたこともない店ばかりでしたw

それと、最後の蟹漁解禁日に行った福井越前海岸の話は面白かったですね。
ちょっとした「日常の謎」っぽい感じで、こういったところから作品のヒントを得たりするんだろうかと、創作の秘密を少し垣間見たような気がしました。

●半生を振り返るロングインタビュー

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今回のメインディッシュ(笑)。
まあとにかく、面白い話が満載です。
なにしろ、デビュー作『氷菓』から『満願』まで、一作ごとに米澤さんが作品を振り返って語ってくれているんですよ!もう、ファンとしてはたまりませんよね。

たとえば、『氷菓』の原型となった話は、当初主人公たちは大学生で、福部里志はいなくって、千反田えるはロボットのような存在だったそうです。(!)
で、折木は質問してくる人工知能に世の中の仕組みを教えてあげる存在だったとかw

さよなら妖精が<古典部シリーズ>第3作目として予定されていたという話は有名ですが、
愚者のエンドロール』よりも『氷菓』のほうが「主人公が自分とは距離のある“大状況”につながっていく話」という共通点があるという話は、なるほどと思わせられました。

当初、<小市民シリーズ>はシリーズ化の予定はまったくなかったというのも初めて知りましたね。
春季限定ではキャラクターというよりあくまでミステリー中心だったそうなのですが、
夏季限定を書いてシリーズ化となったことで、小鳩くんと小佐内さんの物語になったのだとか。

このあたりから二人を描くこととミステリーを書くことが両立できるようになったという感覚があります。その結果、『ああ、この二人でなければこういう事件にはならなかった』と素直に思えたので、うまく彼ら彼女らのミステリーという感じにできたとおもっています(ダ・ヴィンチ9月号161ページより引用)

夏期限定トロピカルパフェ事件』が書かれた2006年は、あの『ボトルネック』が書かれた年でもあります。
こうしてみると、この年に米澤作品は大きな分岐点を迎えたのだという気にしますね。
(『ボトルネック』の話がこれまたむちゃくちゃ面白いのですが、ここでは割愛。気になる人は買いましょう!)

2007年は『インシテミル』と『遠回りする雛』。

インシテミル』はもちろん、綾辻行人へのオマージュもあるわけですが、
それ以上に「新本格が大好き」という思いへの総括だったわけですね。
でも、その後、『名探偵Xからの挑戦状』(小学館文庫からでているアンソロジー)をやって、『ああ、やっぱり楽しいな』と思ったそうで、これでもう新本格ミステリーはおしまい、というわけではないそうですw(ちょっとかわいいw)

遠回りする雛』の話もよかったですね。
なにより、これを書いた第一の動機が、「千反田が血肉を備えていってほしいな」という思いから、というのにぐっときました。

幸せになってほしい、じゃないですけれども、彼らにはそれぞれの人生を送ってほしいなと思っています。卒業したからといってそこですべてが終わるわけではないですが、この話は彼らが学校を出るまでは書きたいと考えています(ダ・ヴィンチ9月号163ページより引用)

<古典部シリーズ>もまだまだ続きそうで、ファンとしてはひと安心ですが、学校を出るまでって、いったいあと何年かかるのだろうか、とちょっと不安にもなりますねw

2008年は『儚い羊たちの祝宴』。
個人的に米澤穂信最高傑作と思っている『夏期限定―』と同じくらいに好きな作品なのですが、
これは、初対面の編集者からいきなり「好きなものを書いてください」と依頼されたのだそうです(笑)。
で、もともとは「連作」ものではなかったそうなのですが、結果としてそうなったのだとか。
うまく書けたのは『北の館の罪人』だけど、一番読み味があるのは『玉野五十鈴の誉れ』かな、とか、本人もかなり気に入っているようで、我が意をいたりと思ってしまいますw

2009年は『秋季限定栗きんとん事件』と『追想五断章』。

冬期限定』の話が少し出てきていているのですが、やっぱりまだまだ刊行未定のようですね……。
(『時の娘』(ジョセイン・テイ)のパターンをやるという話は変わっていないようです)

追想五断章』は辻村さんとの対談でもおっしゃっていましたが、期せずして『氷菓』の再話のような形になったということのようですね。(全然雰囲気は違いますけどねw)
また、異国情緒ものや作中作っぽいものは好きなのでまた試してみたいとも語っています。
米澤さんの中でもかなり地味な作品ですが、実は米澤ワールドの王道をいっている作品なのかもしれません。

2010年は『ふたりの距離の概算』と『折れた竜骨』。

ふたりの距離の概算』が『A型の女』(マイクル・Z・リィーイン)が着想のきっかけというのは、あとがきの中でも触れていましたが、原題の『正しい質問をする』からマラソン大会という舞台を思いついたというのはすごいですね。
とても普通では出てこない、ミステリ作家ならばの発想だと改めて感服してしまいます。

ちなみに、<古典部シリーズ>の新刊は今のところ未定だそうです……。

折れた竜骨』は第64回日本推理作家協会賞受賞作で、作家米澤穂信が一躍メジャーになった記念すべき作品ですね。
元はWEB小説というのは、これまた、あとがきにも書いてある有名な話ではありますが、当初の題名が『敵は人殺士』だったというのは初耳でしたw(しかしなんつータイトルだ…)

2011、2012年は刊行なし。
ただ、2012年4月から9月まで<古典部シリーズ>が「氷菓」としてテレビアニメ化したので、
その方面でけっこう時間を割かれていたのですね。

アニメの企画会議にも参加し、コミカライズも始まり、それの書き下ろし依頼もあったりと、割とアニメ周りの準備で忙しく、
そのため、その当時、雑誌連載をしていた『リカーシブル』も書き溜めがそれほど進められなかったそうです。

なるほど、『リカーシブル』は雑誌連載時と単行本とで、かなり内容が違っているらしいのですが、
そういった事情も影響しているのかもしれませんね。
(私は雑誌連載版を読んでいないのですが、なんでも結末さえも異なるのだとか!)

2014年はもちろん、『満願』。

以前にも言及したことがありましたが、
連作短編集ではなく独立短編集を、というところにこの作品の意味があるんですよね。

連作短編集に比べて独立短編集は商品として売りにくい。それを覚悟したうえでの作者と編集者の挑戦だった。(ダ・ヴィンチ9月号166ページより引用)

米澤さんもそこに『燃えますよね』と言っています(笑)。

後、一番書くのが大変だったのは『関守』だったとか。
この作品に出てくる“アレ”がどういうきっかけで思いついたのか、という話も出てきて面白かったですね。

あと本人の著作ではなく、『世界堂書店』という米澤穂信編集アンソロジーが出ていているのですが、
これができるきっかけの話もけっこう意外でしたね。え、そんないい加減なことから?とか思ってしまいましたよw

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最後には、アンソロジー収録や単行本未収録作品などのリストが。
これはファンにとってうれしいですよね。

私は基本、文庫落ちしてから購入する派なので、
これを見ると、まだまだ読んでいない作品がけっこうあります。

<甦り課シリーズ>とか<シモンズシリーズ>の一遍がアンソロジーに収録されていることも知りませんでした。探してみようかなぁ……

今回の特集は、昔ながらのファンにも、最近になって米澤穂信が気になりだした人にも、満足できる充実した内容になっていると思います。
はっきり言って、永久保存版ですよ!
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tag : 米澤穂信

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ぬるく切なくだらしなく。 オタクにも一般人にもなれなかった、昭和40年代生まれの「なりそこない」がライトノベルや漫画を主観丸出しで書きなぐるところです。 滅びゆくじじいの滅びゆく日々。 ブログポリシーはこちら

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