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「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~消えない絆~」感想~ビブリア古書堂の事件手帖6からの再読~

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)
(2012/06/21)
三上 延

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2巻の感想から、かなり時間が空いてしまいましたが、「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ再読、ようやく第3回目です。

前巻のあとがきにあったように、この巻から「物語はようやく本編」に入ります。
なので、1巻、2巻とは少し雰囲気も変わってきます。
単なる五浦くんのバイト物語ではなく、二世代三世代にわたる、家族の物語といった側面を帯びてくる訳です。

本人には言っていないけど、ここには書いておく。
あたしの見たところ、五浦さんは自分より立場が上の人、特に目上の女に振り回されやすいタイプだ。戦士みたいな体つきのくせに、性格はなんか侍従っぽい。(本文6ページより引用)


冒頭からいきなり篠川文香の日記(?)で始まることからもその辺は伺えますよね。
それまで一貫して、五浦くんの一人称形式だった「ビブリア」ワールドが、別の視点が入ることによって、五浦くんからは見えなかった事件の裏側が見えてくるわけです。

それに加えて、人物像というか、五浦大輔や篠川栞子が他人からどう見えているのかが伺えて、
この辺はなんだか他人の日記を盗み見しているような面白さがありますね。(実際、そうなんですけど)
いっきに世界観が複眼的になった気がします。

まあなんにせよ、五浦くんの気持ちが端から見るとバレバレなのが、微笑ましいですw

※例のごとく6巻まで読んでからの再読なので、ある程度のネタバレはご容赦ください。


●プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・I

これは、あたしにとっての川原の穴なんだ。
どこまで続いてるか分からないけど、穴の奥に誰かがいたりはしないんだ。
そういうことに、しておこうと思う。(本文10ページより引用)


6巻まで読んでから改めて読み直すと、文香がいかに重要なキャラクターなのかがよくわかります。
彼女が誰にでも物怖じしない、いつの間にか懐に入ってくるような人当たりの良さというのは、栞子さんとの対比というだけではなく、明らかに物語上の意味があるんですよね。

おそらく、智恵子さんの本に対する執着などの「オタク」的体質は栞子さんに、
誰にでも打ち解ける、世渡り上手な「リア充」的体質は文香ちゃんに受け継がれたのではないでしょうか。

一見、まったく性格の違う姉妹だけれども、実は母親という存在を介して繋がっている。
つまり、ここにも母子の物語としての側面があるわけです。

あと、文香ちゃんによる五浦くんの評価も今読むと、なかなか鋭いというか、あなどれませんね。

“目上の女に振り回されやすいタイプ”
これって、栞子さんはもとより、智恵子さんのことも指しているようじゃないですか。

本を通して“人間”を読む栞子さんとは方向性は違いますが、彼女もまた、「人間を見る」目が備わっているようです。
で、彼女のこのパーソナリティは今後の大きな伏線となってくるわけです。

※まったくの余談ですが、「王さまのみみはロバのみみ」というと、筋肉少女帯の初期の名曲「労働者M」を思い出します。
「王様の耳はロバの耳じゃないですか!!」
今でも、オーケンのこの叫びを聞くたびにぞくぞくしますね。もしかすると、中二病って完治しないものなのかもしれません。


●第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)

滝野蓮杖は率先するようににやりとした。笑うつもりはなかったが、栞子さんが彼を名前で呼んだことに驚いていた。異性を下の名前で呼ぶ機会がほどんどなかったと聞いたが――。
いや、「ほとんどなかった」なら、少しはあったということだ。(本文35ページより引用)


滝野蓮杖初登場の回ですね。
五浦くんが蓮杖と栞子さんとの仲をちょっと気にしている感じがなんともw
蓮杖も五浦くんの気持ちを知っていてからかっている面がありますよね。
まあ彼とは恋のライバルになることもなく、むしろ、いい相談役といったところなんですけどね。

さて、ここでは、古書組合主催の「古書市場」を舞台に、昔なじみや、なぜか栞子さんに敵意を抱いている同業者など、周りをとりまく人物も増えて、果然ドラマが動き出した!といった印象を受けます。
といっても、いわゆる「業界」ものにはならないのがこの「ビブリア」シリーズなんですよね。
五浦くんと栞子さん、そして文香ちゃんがいるだけで、そうはさせない“磁場”があります。

今回も、栞子さんが万引きの疑いをかけられるという、ややもすると暗い話になりそうなエピソードなのですが、
会話がとにかく面白いので、あまり重苦しい雰囲気にならないのがいいです。

「日本酒、飲むんですね」
「他のお酒は苦手で……あまり、強くないんですけど」
日本酒だけ得意な下戸なんて聞いたことがない。(本文78ページより引用)


特に、居酒屋での栞子さんと五浦くんの会話は最高ですね。
「気にしないで下さい。本当のことですから」とか「……『おとといは兎を見たわ。きのうは鹿、今日はあなた』」とか、どうしても読んでいて口がほころんでしまいますw

このふたりは夫婦漫才でもいけるんじゃないですかね。
栞子さんのボケもすばらしいですが、“本当のことだったらしい”とか“うまいこと言った、みたいな顔をされても”とか、五浦くんのつっこみセンスもなかなかです。

もちろん、単なるいちゃいちゃ回なわけではなく、シリーズ全体から見ても、大きな意味を持っている話でもあります。(当たり前だ)

本当にそうだろうか、とちらっと思った。家族がなにを考えていたのか、意外にわからないものだ。特に本人が口をつぐんでいる場合には。俺にも似たような経験がある。(本文83ページより引用)

『たんぽぽ娘』という本は、2巻からずっと鍵となっている「クラクラ日記」ともつながっています。
つまり、「クラクラ日記」が母が子に託したメッセージならば、「たんぽぽ娘」は妻から夫への想いだったわけですね。

この男が取り戻したかったものは、たぶん本の形をしていない。(本文100ページより引用)

万引き騒動の真相も「本」という物体そのものではなく、“贈る”というその行為が重要だったわけですよね。
だからこそ、「たんぽぽ娘」が収録されている他の文庫ではなく、「コバルト文庫」の『たんぽぽ娘』にこだわっていたわけで。
形のないものを求めるがために、希少本を求めてしまうという図式が興味深いです。

それにしても、事の真相がわかったあとに、
また新たな謎が見えて不穏な空気のままに次へ引っ張るのも、憎い演出ですね。
このパターンは、5巻や6巻のラストにも引き継がれていていて、もはや「ビブリア節」といったところでしょうか。


●第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』

「子供の頃、なかよしの家に行きたかった……寂しい思いをしないで、安心して暮らせる家。この人と結婚して、そういう家に辿り着いたんだと思った」(本文189ページより引用)

……何度読んでもこの話には目頭が熱くさせられます。個人的に、こういう話にはほんと弱いですね。

まず、タイトルがすばらしい。
そう、今までは各話すべて、古書のタイトルだったのに、この話だけ書名ではないんですね。

ここでいう、『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』とは、坂口しのぶさんが子どものころに読んだ絵本のこと。
それは、タイトルどころか、作者も出版社もわからない。肝心のストーリーも断片的にしか覚えていない。

でも、本を探す時って、実際はこんな感じだと思いませんか?
そこまではっきり覚えていないからこそ、探したいわけで。
しかも、遥か昔、子どもだったころの本となれば、それこそ、雲をつかむような話だと思うんですよ。

そういった本を見つけ出す。これこそ、ビブリオミステリの真骨頂というものでしょう!

もちろん、ここで出てくる絵本は架空ではなく、実在します。だからこそ、しのぶさんの絵本に対する想いが切実にせまってくるんですね。

「一度なくした本を取り戻したいと思うことは、ちっとも下らなくありません。訂正して下さい」(本文160ページより引用)

栞子さんが声を荒げるこのシーンも泣きそうになりました。
とくに、五浦くんがこれを聞いて、すぐに『クラクラ日記』のことだと気づいたところなんて、もうね……。こういった描写に五浦くんのかっこよさがあるんですよね。

それと、しのぶさんの両親の描写もいいですね。母親の川端ミズエなんか、リアリティありすぎです。こきおろすことでしか、相手と会話できないとか、ひょっとすると、三上さんの親御さんがモデルだったりするんでしょうか? 
あと、三上さんの描く父親像ってみんな「無口」で「言いたいことをうまく伝えられない」感じですよね。栞子さんのお父さんもそうですし、高坂晶穂のお父さんもそうですよね。この辺、三上さん自身の性格も反映しているのかな?

いずれにせよ、この話も結局は母子の物語なわけで、ずっと繋がっているんですよね。

また、ここでも妹・文香は重要なファクターとなっています。

年末に聞いたある疑惑を、栞子さんにうまく話せない五浦くんに、さりげなく忠告して、栞子さんに打ち明ける後押しをしたり、
栞子さんが絵本の謎を解くきっかけを作ったりと、この巻での彼女の役割は本当に大きいですね。

世間知らずのお姉ちゃんに呆れつつも、その実、しっかり見るところは見ていて、誰よりも心配しているところなんか、もう読んでいてニヤニヤが止まらなくなってしまいます。

あと、彼女が出てくると、いっきにコメディ色になるんですよね。

「あたし誰にも言わないから大丈夫! いやほんと! わりと口は堅いんだよ、最近は」
最近は、というのがかえって不吉だ。(本文165ページから166ページより引用)

とか
「もう邪魔しないから安心して。どうぞごゆっくり……」
旅館の仲居のようなことを言い残し、バッグを抱かえて襖を閉めようとする。(本文169ページより引用)

とか、五浦くんのつっこみも相まって、読むたびに吹き出しそうになりますw


●エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・II

誰かに自分の言葉を聞いて欲しかったのかな。だったらちょっと気持ちは分かる。(本文294ページより引用)

最後は再び、文香の日記で終わります。
ネタバレは一応避けるつもりなので、これがどういうことなのかはここでは語りませんが、まあ感がいい人にはプロローグの段階で分かってしまうかもしれませんね。(つまり、文香の日記そのものが3巻全体のミステリ的構造に関わっているわけです)

ただひとつ言えることは、ここには文香という女の子の魅力がすべて詰まっているということです。
もう本当にこのエピローグは、何度読んでも切ないですね。ほとんど娘の成長を見守る父親の気分ですよw

ただの穴に叫ぶのは、やっぱりちょっとさびしいよ。(本文296ページより引用)

なんというか3巻は、この一文にすべてが込められている気がします。
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tag : ビブリア古書堂の事件手帖

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ぬるく切なくだらしなく。 オタクにも一般人にもなれなかった、昭和40年代生まれの「なりそこない」がライトノベルや漫画を主観丸出しで書きなぐるところです。 滅びゆくじじいの滅びゆく日々。 ブログポリシーはこちら

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