いま「寄生獣」を読み直す。~心が躍る面白さ~

寄生獣。

20年近く前に完結したこの作品が、今また注目を浴びています。
この10月からテレビアニメ、11月29日からは実写映画が公開と、今後立て続けにメディア展開されていくそうですね。

まあ、なぜ今?という疑問もなくはないですが、
なんにせよ、過去の名作がふたたびこうして再評価されるということはうれしいですね。
正直アニメも実写も、ほとんど全くと言っていいほど期待はしていませんが、
それでも、原作が若い人に再び読まれるきっかけになればいいなと思っています。

この作品のすごさ、奥の深さはすでに多くの人たちに語られていますので、
いまさら私がここで述べるまでもないでしょう。
若い人たちに言うべき言葉があるとすればただ一言、「とりあえず読んでくれ!」これだけですね。

なので、この場では私、“なりそこない”のきわめて個人的な思いを綴ることにいたします。

●マンガだからこそ表現できた名作

ギャグやコメディ作品ばかりを好んできた私でも、この作品は特別でした。
連載当時は、月刊アフタヌーンの発売日がすごく楽しみだったことをよく覚えています。

ちょうど今、講談社から三ヶ月連続で新装版が刊行されるとのことで、改めて読み直しているのですが、
いやあ、ありきたりの感想になってしまいますが、やっぱり面白いですね。
2014年の今読んでも本当に面白い。
つまりはここには普遍的な面白さがつまっているということ。
そして、この面白さはマンガならでは、なのだということを改めて実感させます。

アニメや実写に期待していないというのは、もちろん、発表されたキャスティングやPVを見ての落胆という点もあるにはあるのですが、そもそも「映像」というスタイルでは「寄生獣」は表現できないという思いがどうしても拭えないからなんですね。

例えば、じゃあ、どういうキャスティング、それこそミギーの声はだれがよかったのか、とか
田村玲子(田宮良子)はだれが合っているのか、と言われると、はて?と首を傾げてしまうわけです。

ミギーの声はもっと親父だとか、いや機械ぽいだろうとか、いろいろ人によって思い浮かべるイメージはあるようですが、けっきょくのところ、どんな声だろうとしっくりこなかったのではないでしょうか。
物語初期と終期ではミギーの性格というか受ける印象が違いますし、話が進むに従って声も変化していったのではないかと個人的には思っています。田村玲子も「田宮良子」とは違いますしね。

つまり、ミギーも田村もマンガの中でしか表現できないキャラクターだったのではないかと思うんですよ。声や動きじゃないんです。絵の中だけの存在というか。

ノベライズでも難しいかなあ。特にミギーの魅力というのは。あの“人間らしさ”は文章だけでは表しきれない気がします。
もはや漫画ではない、「哲学書」だという意見も見たことがありますが、いやいや文章でなく、マンガだからこそでしょ!と声を大にして言いたいですね。どうも、ああいうマンガを持ち上げているようでその実、見下しているような論調は好きになれません。

確かに寄生獣たちの形態やアクションシーンなど「映像」で見たい部分もなくはないのですが、そこよりもキャラクターたちの成長というか変化を表現できなければ、単なるB級アクション映画になってしまいますしね。
そういえば当時、ターミネーター2を見に行って、なんだ寄生獣じゃん、と思った記憶があります。
いくらCGなんかで“寄生獣”を表現できても下手すると「ターミネーター」の二番煎じ扱いされかねませんよね。

スプラッタ的なインパクトもマンガだからこそ、うまくはまったと言えます。いくらグロでもしょせん「絵」というのがいいバランスなんですよ。
これが最新技術の特撮でリアルに表現されると、そのクオリティばかりに目がいってしまって
キャラクターの感情や表情などが霞んでしまいそうですしね。

これはアニメでも同じですね。読んでいても「止め絵」だからこそ、映える形状、アクションという気がします。
果たして「動き」が入ってどうなるのか、わかりませんが、私は懐疑的ですね。

そして何よりも、あの絵柄!
どこか野暮ったいというか、垢抜けていない感じがこの作品にはピッタリなのですよ。
アニメではやはり「動かすための絵」にされてしまっていますが、それだけでも作品の魅力を半減している感じがしてしまいます。
まあ、それでもなんだかんだ言って始まったら見てしまうような気がしますが……。

●なぜ「完成度」が高かったのか

さて「寄生獣」というと、その深いテーマと同時に「完成度」の高さが必ずと言っていいほどとりあげられます。つまり、変な引き延ばしやよけいなエピソードを挟まずに、最後まで過不足なく奇麗に完結まで導かれた希有な作品だったというわけです。

これに関してはやはり、月刊誌連載という形がよかったんだと思います。
週刊ペースではこの密度はぜったいに保てませんでしたね。

それに全10巻というと、今なら「打ち切りだったの?」とさえ思われがちな分量かもしれませんが、
実は連載期間は5年にわたっています。(アフタヌーン前の連載時期を含めると7年)
そう考えると普通に長期連載だったんですよ。
だからリアルタイムで追いかけていた私も「もう終わるのか」とか逆に「いつまで続けるんだよ」とか思った覚えがないんですよね。
本当にいいタイミングで始まって、いいタイミングで終了したという感覚しかないです。
そういった「幸福さ」も名作と言われるゆえんなのかもしれません。

それと、これは旧版コミックス最終10巻の「付記」に書いてあることなのですが、
作者はそれまでの「登場人物」があり、それから「出来事」を考えるというやり方から
「寄生獣」ではまず、「出来事」が存在し、そこから「登場人物」を配置して行く方法に変えたということを言っています。
これが功を奏したというか、うまくはまったという点も見逃せないでしょうね。

人気があるうちはキャラクターたちに活躍してもらうスタイルではなく、「物語」の完成形を模索して行くスタイル。

これを月刊雑誌という場で追求できたという幸運は、今思うと本当に恵まれていました。
ちょっとオカルト的に言えば、「マンガの神様」に名作であることを運命づけられた作品なのかもしれません。

●エンターテイメントとしての魅力

あと、どうしても哲学的な部分とかまたは逆にグロい部分ばかりがクローズアップされがちですが、
実はけっこうコミカル部分もあり、とにかく「楽しい」作品だということも強調しておきたいですね。

「考えさせられる」とか「メッセージ性が高い」とかいかにも“高尚”な作品として語られてはいますが、
とにかく、それ以上にエンターテイメント性の高い「面白い」作品なんです。
アクションやバトルの面白さはもちろんのこと、キャラクターたちの魅力もこの作品の重要なポイントですね。
これはさきほどの「出来事」と「登場人物」の話と矛盾するようですが、だからといって、決してキャラクターを軽視している作品ではないんです。

なにしろ、敵である「パラサイト」もそれぞれ“個性”がありますからね。
単なる怪物ではなくってやっぱりキャラクターなんですよ。

いかに深遠なテーマであろうとも、主人公が新一でなければ、ミギーでなければ、ここまで評価されなかったはずですし、
パラサイト側にも田村玲子というマンガ史上屈指のヒロイン(?)がいたからこそ、作品により深みを与えられたはずです。

「ストーリー」や「テーマ性」ばかりではマンガとしては物足りないんですよ。
やはりマンガは「キャラクター」を魅せるからこそマンガだと思っています。
だからこそ、高橋留美子主義者の私が、ハマったんですからね。
(“高橋留美子主義”は私の造語ですが、端的に言えば「キャラクター優先主義」「ハッピーエンド主義」のことです)

まあ、いずれにせよ、読めばわかる、です。
新装版でもkindle版でも値段はどちらもそうは変わらないようですので、軽い気持ちで読んでみて下さい。決して難しい話でもわかりづらい話でもありませんから。

●完全版もおすすめ

またちょっと値段は張りますが、出来れば「完全版」のほうで読んでほしいですね。
「完全版」はカラー原稿収録や大判サイズなどもさることながら、連載当時の読者と作者のQ&Aなども載っているのでおすすめです。
特に「完全版」最終巻である8巻には、旧版コミックス最終10巻の「付記」も完全収録していて、これがまた必読ものですね。
完結後に作者が自作を振り返ったものなのですが、本当に興味深い話が満載なのでぜひ。

最後には鶴見俊輔氏による解説も掲載されています。鶴見氏は70歳のときに初めて読まれたそうなのですが、生涯もっとも面白かった本のひとつだと書いています。
最後まで読んだ方には、それが決して社交辞令的なものではないことがわかるでしょう。

実際、終わり方も本当に素晴しかったですからね。
終了当時、ある友人は「けっきょく“寄生獣”ってなんだったの?なんか逃げたラストだったな」という感想を漏らして、いやそれは違うだろと喧嘩になったことを思い出しましたが、
本当に今でも「そこ重要か?必要か?」と思いますね。

あのラストだったからこそ、「デビルマン」のリメイクだの言われても
最終的に違う領域を描き切ることができたわけですから。
なにしろ最終的な結論が『「愚かな人間どもよ」とか人間が言うなよ』ですからね。

●新装版の帯

ところで、新装版は帯に人気漫画家による推薦文がついています。

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1巻 諫山創氏(「進撃の巨人など」)
2巻 奥浩哉氏(「GANTZ」「いぬやしき」など)
3巻 羽海野チカ氏(「ハチミツとクローバー「3月のライオン」など)
4巻 三浦建太郎氏(「ベルセルク」など)

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5巻 高橋留美子氏(「うる星やつら」「めぞん一刻」「犬夜叉」など)
6巻 沙村広明氏(「無限の住人」「波よ聞いてくれ」など)
7巻 平本アキラ氏(「監獄学園」「アゴなしゲンとオレ物語」など)

作風で納得の人から、え?この人も?という意外な人まで様々ですが、
こんなところにもそれぞれの作家の個性が出ていて面白いですね。

諫山氏は新一の敵の倒し方、羽海野氏は『忘れられない台詞』、
三浦氏は寄生獣達のその後、高橋氏は「面白さ」、
そして、奥氏や沙村氏、平本氏は、自分もしくは漫画界全体に与えた影響について言及して改めて讃えています。

それぞれの作風や人柄が出ていて本当に興味深いですが、
そんな中でもやっぱり高橋留美子はぶれないというかなんというか。

もっと、「日本漫画のひとつの到達点」とか「これより完成度の高い漫画を描ける気がしない」とかテンションあげていけばいいのに、「面白さに心が躍る」ですからねえ。
でもこれこそが、高橋留美子が高橋留美子たるゆえんなんですね。

「完成度」よりも「漫画界に与えた影響」よりもまず、「面白さ」を語る。
高橋留美子が「寄生獣」を読んでいたことよりも何よりこのことが嬉しかったですね。
ああ、高橋留美子ファンでよかったと思った瞬間でした。
(旧版も完全版も持っているのに思わず新装版も買ってしまいましたよ)

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tag : 寄生獣

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No title

連載当時のご感想が聞けてとても面白かったです。
私もかなり前に読み、以来とりこにされた一人です。
それまで漫画文化を少し軽く見ていた私でしたが、思い切りひっぱたかれた気分でした。
管理人様の感想には思わず頷いてしまいました。

寄生獣はアメリカでも知る人ぞ知る作品です。聞いた話ですが、アメリカの図書館に置かれた数少ない漫画の一つようです。図書館で借りて読んだことがあるというアメリカ人に会ったことがあります。

新装版は買っていないので帯は気になっていました。
ありがとうございました。

No title

通りすがりさん、コメントありがとうございます。
私の文章が少しでも参考になったらうれしいです。

アメリカのお話もありがとうございます。大変興味深いです。
それだけ普遍性を持った作品ということでしょうね。
名作とよばれるものは時の壁も国境の壁も簡単に飛び越えられるのだということを、改めて認識させられます。
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ぬるく切なくだらしなく。 オタクにも一般人にもなれなかった、昭和40年代生まれの「なりそこない」がライトノベルや漫画を主観丸出しで書きなぐるところです。 滅びゆくじじいの滅びゆく日々。 ブログポリシーはこちら

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