「坂東蛍子、日常に飽き飽き」 感想~セカイ系を装った日常系~

坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫nex し 78-1)坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫nex し 78-1)
(2014/08/28)
神西 亜樹

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今月で創刊100周年を迎えた新潮文庫が新たに立ち上げた「新潮文庫nex」。
さっそく、購入した新潮文庫nex四冊のうち、まずどれから読んでいこうかと考えた末、
神西亜樹氏の「坂東蛍子、日常に飽き飽き」に決めました。

理由としては「新潮nex大賞」第1回受賞者の新人さんという点がひとつあります。

「新潮文庫nex」の衝撃は以前書いた通りでしたが、よくよく考えてみると、
“守り”に入っている感がありありだったんですね。
すでに一般エンタメやライトノベルで名を馳せた人たちばかりを集めて、話題作りには成功しましたが、このままではいずれ行き詰まるでしょう。

というわけで、すでにその実力がわかっている作家さんよりも、まずは、「新潮nex大賞」を受賞された新人さんの作品を読んでみて、レーベルの方向性を占ってみようと思ったんですね。

あと、タイトルからして、いかにも「涼宮ハルヒの憂鬱」の影響がありそうだなーと感じたことも理由のひとつでしょうか。

で、ひととおり読み通した感想ですが、一言でいうと、

しんどい。ですね。もしくは“疲れた”かな。

「キャラクター」はすごく魅力的です。どのキャラも生き生きとしていて見ていて気持ちがいい。
「設定」もぶっ飛びんではいますが、キャラクターを魅せる構造として飽きさせません。

ただ、これら、高級素材の調理の仕方にくせがありすぎるというか、味付けにこだわりすぎて、胸焼けしそうなんですよ。

だから、「もったいない」という気もする作品でしたね。

※以下、若干のネタバレを含みます。

●タイトルに偽りあり

概要はといえば、こんな感じ。
主人公は坂東蛍子、女子高生。彼女が行くところ、必ず世界を揺るがす事件が付いて回る。
タクシーに乗れば誘拐事件、街に出歩けばあらゆる魑魅魍魎が溢れ出す。だがそれらも本人は知らぬこと。彼女は今日も無邪気に青春を謳歌する。

これで、タイトルが「坂東蛍子、日常に飽き飽き」です。
そりゃ「ハルヒ」か!と思うじゃないですか。

ところが読んでみると、なんか違うんですよ。
まず、蛍子が日常に飽き飽きしていない。つまりタイトルに偽り有りです。
別に「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者」を求めていなくてもいいですが、
少なくとも彼女自身が非日常を求めていなきゃ「日常に飽き飽き」じゃない。

でも実際は、普通の毎日を送っていて、友達との仲に一喜一憂したり、
恋の悩みに胸を焦がしたり、なんともぬるい環境に満足しているわけです。
彼女を発端にして様々な非日常的騒動が起こっても、“それらも本人は知らぬこと。”
最終的には地球滅亡か、まで話が飛んで行くのですが、最後まで彼女はそんなことはつゆ知らず、さわやかな青春を謳歌して物語は終わってしまいます。

いや、もちろん「ハルヒ」である必要なんて全然ないんですが、
本当、なんでこんなタイトルにしたんですかねえ。

●群像劇としてのテンポは?

物語構造としては「群像劇」スタイルでしょう。ひとつの事柄に対して、同時に様々な登場人物の視点で語られていきます。

まず、最初にある小学生が誘拐される事件から物語は始まるわけですが、とにかく状況や視点が急ピッチで変わっていくため、ついていくだけで疲れます。
おまけにその視点の中には、人語を解するぬいぐるみや自我に目覚めた猫、侍の幽霊、閻魔大王といった存在も含まれます。
これらがなんの説明もなく突然変わっていくわけですから、状況を理解しようとするのに精一杯で、肝心の蛍子の物語がなかなか頭に入っていきません。

おまけに、文中にちょいちょい、
『ちなみに◯◯は今はこうだが、将来は東洋人唯一のマフィアとして恐れられる男となる。』
みたいな「余談」を入れてくるので、その度に冷や水をかけられたような気分になります。

いや、わかりますけどね。あらゆる事柄はつながっているんだよ、といったテーマをネタっぽく表現しているんでしょうけど、読んでいる方としては「いや、そういうのはいいから」と言いたくなるわけです。

群像劇なのはテーマにも繋がってくるので、それ自体はいいのですが、
いかんせん、テンポが目まぐるしいんですよね。
キャラクターひとりひとりはすごく魅力的なのに、
そのキャラに感情移入する前に次にいってしまうため、落ち着く暇がないのです。

●こういう作品こそ「絵」が欲しい

視点もさることながら、状況自体もころころ変わっていきます。
特に最後の第4章「ウロボロス大作戦」はその名の通り、
AがBを追いかけ、BがCを追いかけ、CがDを追いかけ、そしてDはAを追いかけるといった趣向のドタバタアクションで、読んでいくうちに、「あれ、こいつは誰を追いかけているんだっけ?」と何度も前を読み直すはめになってしまいます。

描写自体は楽しいですし、キャラクターの行動パターンもそれほど違和感を感じさせません。
ただ、これをやや脱線気味の文章で読まされると、ストーリーを楽しむ暇がなくなるんですね。

むしろ、これこそマンガか、もしくは映像で見たいですね。
4章は巨大宇宙船やら、CIAの戦闘機やら、アンドロイドやら、もはやなんでもありの状態になっていくわけですが、これらも「絵」あっての展開だと思うんですよ。
どこかマンガの原作か、アニメのプロットを読まされているような気がしてくるんです。
「絵」があれば、構図もすっきり見えて、かなりわかりやすくなるのではないでしょうか。

●セカイ系を装った日常系

とにかく人形の国だの第四惑星の存亡の危機だの創造の神だのと、
やたら仰々しい舞台が語られるため、一見すると、壮大なスペクタクルと錯覚してしまいがちですが、
最後まで読み終えてしまうと、要するにこれ、女子高生ふたりが別れてから仲直りするまでの友情物語なんですね。

そんなささやかな人間模様がアメリカ諜報員やら宇宙人やらはたまた万物創造の神やらに影響を与え、すべてを巻き込んだ騒動に広がっていく……。
なんてことのない、つまりは「セカイ系」の構造そのものですね。

ふたりの秘密の合図が偶然にも地球崩壊スイッチと一致していた、なんて、もうそのまんまじゃないですか。
もはや「ハルヒ」を彷彿とさせるなんてレベルじゃないです。

ただ、蛍子自身はまったく「世界の危機」とつながっている意識がないのが、面白いですね。
彼女としては、単に親友との友情を復活させるまでの物語を語ったに過ぎないのです。
そして、決して「日常に飽き飽き」しているわけでもなく、「非日常」を渇望しているわけでもなく、
ただ、好きな人を好きでいられることや、かけがえのない親友といっしょに笑えることが大切なわけです。
「セカイ系」のスタイルを借りつつ、その実「日常系」青春ものをしっかり展開していくという、なんとも奇妙な味わいの作品ですね。

坂東蛍子は最後に親友、満にこう言い放ちます。
「宇宙人とか、幽霊とか、そんなのいるわけないじゃない!」

もしかすると、この作品は「ハルヒ」に対するオマージュでもあり、
ひとつの“答え”を提示したものでもあるのかもしれません。

●スピンオフ希望!

しかし、本当に惜しい作品だと思いますよ。
もっともっと面白くできるはずです。そう思わせるだけの「物語」力はあります。

あと、ジャス子こと桐ヶ谷茉莉花や黒丈門ざらめなど、ヒロインに負けず劣らず魅力的なのに、最後まであまり語られずに消化不良気味のキャラクターが多かったこともちょっと残念でした。

他にもスピンオフができそうなキャラばかりですし、
次は群像劇ではなく、視点をひとつにしぼったスリムな文章で読みたいですね。
読ませる文章技術さえ備われば、将来有望な作家さんですよ。

いろいろ、文句も言ってきましたが、
続編がでたら、たぶん買います!
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tag : 神西亜樹 新潮文庫nex

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