山本周五郎賞選評まとめ&祝直木賞ノミネート!
第27回山本周五郎賞を受賞した米澤穂信さんの「満願」。
その選評が載っていたので、小説新潮2014年7月号を購入。
それぞれの選考委員の好みや小説への考え方が出ていてなかなか興味深かったです。
候補作全6作品それぞれに意見がありましたが、その中から「満願」の選評のみピックアップしてみました。
●山本周五郎賞選評まとめ
石田衣良氏は先日の読売新聞の記事にも載っていましたが、とにかく、「一冊で長編数本分のアイディアと設定を連作ではなく全部世界が違った短編に詰め込んだ」ことに感心されていたようでした。次は豪快な長編を期待しますとも。
その選評が載っていたので、小説新潮2014年7月号を購入。
![]() | 小説新潮 2014年 07月号 [雑誌] (2014/06/21) 不明 商品詳細を見る |
それぞれの選考委員の好みや小説への考え方が出ていてなかなか興味深かったです。
候補作全6作品それぞれに意見がありましたが、その中から「満願」の選評のみピックアップしてみました。
●山本周五郎賞選評まとめ
石田衣良氏は先日の読売新聞の記事にも載っていましたが、とにかく、「一冊で長編数本分のアイディアと設定を連作ではなく全部世界が違った短編に詰め込んだ」ことに感心されていたようでした。次は豪快な長編を期待しますとも。
角田光代氏はまず最初の「夜警」を絶賛されていて、それがあまりにみごとなので、警察を舞台にした連作短編集なのかと思っていたのだとか。ただ、「柘榴」だけは、中学生姉妹の感情があまりに作者の頭のなかで書かれたような気がして、少々しらけてしまったそうです。
そうすると他の作品も気になりだして、トリックはみな驚かされるけれども、そのトリックを起こさせる人の心理感情にもうひとつ何か欲しいとも感じたそうです。
うーん、これは女性ならばの意見かもしれませんね。「柘榴」は6作品の中で唯一女性視点の一遍でしたし、女性にしてみたら違和感がある部分があるのかもしれません。もちろん、角田さんも「満願」そのものは受賞に値する作品集だと褒めていらっしゃいました。
佐々木譲氏はどの作品も語り口が巧みでクオリティが高く、安定感があるとのことで、「満願」を一番に推したとのこと。ただ、いくつかの作品には惜しいとも思ったそうです。「満願」は最後の「動機」が若干弱く感じられたそうで、時代が昭和四十年代よりも戦前か大正時代の設定なら納得いったかも、と書かれていました。
また、「夜警」は「動機」と「行為」の剥離の面白さには感嘆したものの、撃ってしまった一発の弾丸は見つからないほうが現実的ではないかとして、リアリティ問題の解決策として別の描き方を提言されていて、さすが警察小説の大家だけあるなと感心してしまいました。
さらには「夜警」や「万灯」のような社会派系統の題材よりも米澤さんは「満願」や「死人宿」「柘榴」のような耽美性や官能性のある題材こそがお好きなのでは、とも分析されていて、やっぱりプロは見るところが違うなと思わされましたね。もちろん、社会派系統が劣るというわけではなく、叙述を楽しんでいる様子の違いにそれを感じるとのことです。
白石一文氏は「この一作」と勢い込んで「満願」を推すつもりが、一回目でほぼ満場一致で決まってしまったので、いかさか肩すかしを食ったような展開だったと記していました(笑)。
白石氏も「夜警」ですっかり魅了されたそうで、米澤氏の一見真面目で朴訥そうな温顔の奥のもう一つの顔はいかに異様なものだろうかと、想像たくましくしているとか。まあ、確かに「動機」の衝撃度からすると「夜警」は群を抜いていた感がありますからねえ。
唯川恵氏はそれぞれがまったく趣向の違った短編ミステリーになっていてバラエティに富んでいること、ミステリーにありがちな構成に引き摺られて人間が書けていない辺りに細やかな配慮がなされていることを褒めていましたね。
ちなみに最も面白かったのは「万灯」とのこと。他の五編の息が詰まるような、内へ内へ向かうような描かれ方に対して、スケールの大きさと開放感を味わったそうで、着地点にも納得とのことでした。
まあ、とにかく、今回は満場一致ですんなり決まったようですね。
編集後記にも圧倒的な支持を受けての満票と言っていい受賞だった、あんなにスムーズに結論に至った選考会はここしばらく記憶にない、とまで書いてあるくらいですから、まさに文句なしの受賞と言っていいでしょう!
●短編集は不利だった?
ところで、「満願」は流行りの連作短編でもなく、テーマ縛りもない、『独立』した短編集だったわけですが、この「独立した」というのは、従来弱みと見なされがちだったそうです。長編が強い日本の文芸市場では、一冊にしたときに纏まりに欠ける、というのがその理由だったそうで……。
ところが、選考会で評価されたのは、まさにその点でした。唯川氏の選評にもありましたが、一つ一つが別のベクトルでバリエーションに富んでいる、一冊で六度美味しいという点が、今回高く評価されたのです。
米澤さんの「受賞のことば」でも、受賞の電話には大層不意を突かれたが、その理由はどうやら『満願』が短編集だという原因のようだ、とあって、作者本人にもどこか短編集に対する「軽んじる思い」があったことを告白(?)されていてました。
うーん、意外とこの短編集問題というのは結構根が深いのかもしれませんね。漫画やライトノベルでも短編集はあまりありませんし……。
●直木賞ノミネート!
さて、小説新潮と同日発売の「オール讀物2014年7月号」では第151回直木賞候補作が発表になっていて、こちらでも米澤さんが「満願」で初ノミネートされました!
まあ、山本・直木のダブル受賞というのはさすがにないでしょうし、他の候補者も米澤氏と伊吹有喜氏以外は毎回ノミネートされるような常連さんばかりですから(黒川博行氏などは6回目(!))、こちらはたぶん他の方が受賞されるでしょうが、これもいかに「満願」が今まで以上に完成度の高い作品だったかを象徴しているとことだと思います。
「オール讀物2014年7月号」でも米澤氏のコメントが載っています。
「遺産が欲しいというようなまともな動機の作品は一つもない、独立短編集」ですが、共通する空気感があるなら、「登場人物が世の中の常識と微妙にずれた、個人の信仰や救い求めるために事件を起こしている」ことだそうです。
また、「謎と答えだけではなく、なぜ人はその謎を作り、なぜその謎を解かなければならないのかという心性を追求した」
「『夜警』は主人公の後輩が警察を辞めた後に自殺したという回想シーンを後から入れた、それによって、謎を解かなければならない必然性をより高めた」とも。
この辺の話も興味深かったです。「夜警」という話は米澤さんもとくに神経を使って練り上げた作品のようですね。
●どの話が一番好きか
小説新潮の編集後記でも
一番好きな短編を聞いても清々しいほど見事に分散しているらしい、とあったのですが、
米澤さんに寄せられる読者の感想でもダントツの一番人気というのはなく、それぞれ人気がばらけているらしいです。
これはもちろんすべての作品の質が高いことの証左ですが、
米澤さんによると「若い方は『柘榴』が好き言ってくださる方が多い」そうです。
山本周五郎賞選考委員の作家のみなさんはどちらかというと「夜警」や「万灯」など社会派系統を挙げている方が多かったですが、この違いはちょっと面白いですね。
私もどちらかというと佐々木譲氏の言う“耽美系”のほうが好みなので、こういった分析も興味深いです。ちなみに私の一番は前にも書きましたが、断然「満願」です。妙子萌え!
あと、やっぱり女性からすると、「柘榴」の夕子月子や「満願」の妙子の感情はリアリティにいささか欠けるものなんでしょうかね?私気になります!
そうすると他の作品も気になりだして、トリックはみな驚かされるけれども、そのトリックを起こさせる人の心理感情にもうひとつ何か欲しいとも感じたそうです。
うーん、これは女性ならばの意見かもしれませんね。「柘榴」は6作品の中で唯一女性視点の一遍でしたし、女性にしてみたら違和感がある部分があるのかもしれません。もちろん、角田さんも「満願」そのものは受賞に値する作品集だと褒めていらっしゃいました。
佐々木譲氏はどの作品も語り口が巧みでクオリティが高く、安定感があるとのことで、「満願」を一番に推したとのこと。ただ、いくつかの作品には惜しいとも思ったそうです。「満願」は最後の「動機」が若干弱く感じられたそうで、時代が昭和四十年代よりも戦前か大正時代の設定なら納得いったかも、と書かれていました。
また、「夜警」は「動機」と「行為」の剥離の面白さには感嘆したものの、撃ってしまった一発の弾丸は見つからないほうが現実的ではないかとして、リアリティ問題の解決策として別の描き方を提言されていて、さすが警察小説の大家だけあるなと感心してしまいました。
さらには「夜警」や「万灯」のような社会派系統の題材よりも米澤さんは「満願」や「死人宿」「柘榴」のような耽美性や官能性のある題材こそがお好きなのでは、とも分析されていて、やっぱりプロは見るところが違うなと思わされましたね。もちろん、社会派系統が劣るというわけではなく、叙述を楽しんでいる様子の違いにそれを感じるとのことです。
白石一文氏は「この一作」と勢い込んで「満願」を推すつもりが、一回目でほぼ満場一致で決まってしまったので、いかさか肩すかしを食ったような展開だったと記していました(笑)。
白石氏も「夜警」ですっかり魅了されたそうで、米澤氏の一見真面目で朴訥そうな温顔の奥のもう一つの顔はいかに異様なものだろうかと、想像たくましくしているとか。まあ、確かに「動機」の衝撃度からすると「夜警」は群を抜いていた感がありますからねえ。
唯川恵氏はそれぞれがまったく趣向の違った短編ミステリーになっていてバラエティに富んでいること、ミステリーにありがちな構成に引き摺られて人間が書けていない辺りに細やかな配慮がなされていることを褒めていましたね。
ちなみに最も面白かったのは「万灯」とのこと。他の五編の息が詰まるような、内へ内へ向かうような描かれ方に対して、スケールの大きさと開放感を味わったそうで、着地点にも納得とのことでした。
まあ、とにかく、今回は満場一致ですんなり決まったようですね。
編集後記にも圧倒的な支持を受けての満票と言っていい受賞だった、あんなにスムーズに結論に至った選考会はここしばらく記憶にない、とまで書いてあるくらいですから、まさに文句なしの受賞と言っていいでしょう!
●短編集は不利だった?
ところで、「満願」は流行りの連作短編でもなく、テーマ縛りもない、『独立』した短編集だったわけですが、この「独立した」というのは、従来弱みと見なされがちだったそうです。長編が強い日本の文芸市場では、一冊にしたときに纏まりに欠ける、というのがその理由だったそうで……。
ところが、選考会で評価されたのは、まさにその点でした。唯川氏の選評にもありましたが、一つ一つが別のベクトルでバリエーションに富んでいる、一冊で六度美味しいという点が、今回高く評価されたのです。
米澤さんの「受賞のことば」でも、受賞の電話には大層不意を突かれたが、その理由はどうやら『満願』が短編集だという原因のようだ、とあって、作者本人にもどこか短編集に対する「軽んじる思い」があったことを告白(?)されていてました。
うーん、意外とこの短編集問題というのは結構根が深いのかもしれませんね。漫画やライトノベルでも短編集はあまりありませんし……。
●直木賞ノミネート!
さて、小説新潮と同日発売の「オール讀物2014年7月号」では第151回直木賞候補作が発表になっていて、こちらでも米澤さんが「満願」で初ノミネートされました!
![]() | オール讀物 2014年 07月号 [雑誌] (2014/06/21) 不明 商品詳細を見る |
まあ、山本・直木のダブル受賞というのはさすがにないでしょうし、他の候補者も米澤氏と伊吹有喜氏以外は毎回ノミネートされるような常連さんばかりですから(黒川博行氏などは6回目(!))、こちらはたぶん他の方が受賞されるでしょうが、これもいかに「満願」が今まで以上に完成度の高い作品だったかを象徴しているとことだと思います。
「オール讀物2014年7月号」でも米澤氏のコメントが載っています。
「遺産が欲しいというようなまともな動機の作品は一つもない、独立短編集」ですが、共通する空気感があるなら、「登場人物が世の中の常識と微妙にずれた、個人の信仰や救い求めるために事件を起こしている」ことだそうです。
また、「謎と答えだけではなく、なぜ人はその謎を作り、なぜその謎を解かなければならないのかという心性を追求した」
「『夜警』は主人公の後輩が警察を辞めた後に自殺したという回想シーンを後から入れた、それによって、謎を解かなければならない必然性をより高めた」とも。
この辺の話も興味深かったです。「夜警」という話は米澤さんもとくに神経を使って練り上げた作品のようですね。
●どの話が一番好きか
小説新潮の編集後記でも
一番好きな短編を聞いても清々しいほど見事に分散しているらしい、とあったのですが、
米澤さんに寄せられる読者の感想でもダントツの一番人気というのはなく、それぞれ人気がばらけているらしいです。
これはもちろんすべての作品の質が高いことの証左ですが、
米澤さんによると「若い方は『柘榴』が好き言ってくださる方が多い」そうです。
山本周五郎賞選考委員の作家のみなさんはどちらかというと「夜警」や「万灯」など社会派系統を挙げている方が多かったですが、この違いはちょっと面白いですね。
私もどちらかというと佐々木譲氏の言う“耽美系”のほうが好みなので、こういった分析も興味深いです。ちなみに私の一番は前にも書きましたが、断然「満願」です。妙子萌え!
あと、やっぱり女性からすると、「柘榴」の夕子月子や「満願」の妙子の感情はリアリティにいささか欠けるものなんでしょうかね?私気になります!
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