「満願」感想第6回「満願」~とかくこの世はままならぬもの~

第27回山本周五郎賞受賞満願」、いよいよ最後のタイトル作、その名も「満願」についての感想です。

読み終えた後、とにかく言葉にならないくらいの衝撃を受けました。それは「戦慄」と言ってもいいかもしれません。間違いなく今回の短編集を象徴する一遍であり、タイトルに抜擢したのも納得の名作でしょう。

個人的には6作品の中でも「満願」はずば抜けていましたね。これを最後に持ってきたのは大正解です。これを始めのほうで読んでしまったら他の作品の印象まで霞んでしまったかもしれません。(他の作品が劣るというわけではありません。念のため)

あらすじは、
主人公は弁護士。かつて司法試験を目指していた時にお世話になった下宿先の奥さんが殺人事件の容疑者として起訴された事を知り、弁護を引き受ける。被害者は悪徳金融業者で、欲しいものを手に入れるために金を貸すような人物だった。主人公は被害者が妙子に無理矢理関係を迫っていたからゆえの衝動的な犯行だとして正当防衛が成立すると主張する。
だが、控訴審に進んだ段階で彼女は突如控訴を取り下げてしまう。そして懲役八年の判決が確定。それから季節は過ぎ、今日は妙子の出所日。
果たして妙子の本当の動機はなんだったのか。そして控訴を急に取り下げた理由は。やがて主人公は恐るべき真相に気づいていく……
といったところでしょうか。

(以下、ネタバレを含みます)
※核心部分は見えにくくしています。

満願」は「夜警」や「柘榴」同様、犯人の“動機”が物語の根幹ですが、正直、動機そのものの衝撃度は「夜警」や「柘榴」のほうが上かもしれません。しかし、私が「満願」に打ちのめされたのはむしろ“動機”よりも、犯人がそれに基づいてとった“行動”のほうでした。
血が飛び散ることを想定し計算して、座布団を使うとか、掛軸が奪われる心配がなくなったから控訴を取り下げるとか、正直、「夜警」の川藤がやろうとしたことなんて可愛いものに思えてくるくらい戦慄が走りましたね。

で、私にはそんな妙子がすごく魅力的に見えてしまったんですね。川藤や「柘榴」の夕子にはぞっとさせられた自分が、先祖への誇りからそこまでしてしまう妙子がなんだか愛おしく見えてしまったんです。ちょっと違うかもしれませんが、横溝正史「悪魔の手毬唄」の犯人に対する気持ちに近い感じでしょうか。いずれにせよ、悪女というのはいつの時代も男を魅了させるものです。いえ、妙子は悪女ではないですけどね。むしろ、無垢すぎたのでしょう、彼女は。
(ちなみに米澤ヒロインズで一番好きなのはもちろん小市民シリーズの小佐内さんです!)

どうも、この作品に関してはあまりネタバレを前提にして書いても面白くない様に思えますので、感想はこの辺にしておきますが、最後にもうひとつだけ。

「酒に強いのも不幸だが、女房が立派なのはなお悪い」

これは夫である重治が主人公に語ったセリフです。最初に読んだ時には誰もが主人公同様、重治の言っている意味がわからずに反感を抱くはずですが、最後まで読み終えて、このセリフの意味がわかると……。

いや、これは「クドリャフカの順番」や「夏期限定トロピカルパフェ事件」にもちょっと通じるテーマかもしれません。
それにしても、ただでさえ妙子の“動機”に驚かされるのに、さらにその裏に、こんな人間の業とでも言うべきものをさりげなく入れてくるとは。
本当に米澤穂信という作家は一筋縄では行きません。

満願満願
(2014/03/20)
米澤 穂信

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tag : 米澤穂信 満願

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